ヤキモチ妬き彼氏


「あ、あの…えーっと…ナナバさん?」
「どうしたの?名前?」


私は今、馬小屋の外でナナバさんと向き合うようにして壁に押さえつけられている。
愛馬の世話をしようとここまで来て、ナナバさんの姿が見えたから嬉しくなって駆け寄ったらこんなことになってしまった。
自分でもどうしてこんな状況になったのかは全く分からない。しかし、そんな私でも1つだけ分かることがあった。


「…何か怒ってます…よね?」
「別に怒ってなんていないけど。」


嘘だ!絶対に怒ってる!
だって顔は笑ってるけど目が全然笑ってないもん!


「ところで名前、昨日の夜は何をしてたの?」
「えっ?昨日の夜は…ゲルガーさんに愚痴を聞いてくれって頼まれて2人で酒場に…」


途中まで言いかけて私はやっと気が付いた。
ナナバさんの怒っている理由に。


「酒場に何?」
「酒場に行ってお酒を飲みました…。」
「ふーん。そうなんだ。そんなこと私は名前の口からは一言も聞いてなかったけどね。」


私の手首を押さえつけているナナバさんの手の力が強くなる。
やっぱりゲルガーさんと一緒にお酒を飲みに行ったことに怒ってるんだ。


「…ごめんなさい。ナナバさんに言ったら心配かけちゃうと思ったんです。」
「そうか。でもゲルガーは名前が誰の物かよく分かってないみたいだからね。」
「えっ?ゲルガーさんは私とナナバさんの関係知ってますよね?」
「一応知ってるみたいだけど、名前のこと諦めてないみたいだよ。」
「えっ!?」


あのゲルガーさんが私にただの部下以上の気持ちが!?そんなの聞いたことない!
よく飲みに誘ってくれるけど、ただ愚痴を聞いてもらいたいんだと思ってた。


「とにかく名前、もっと警戒心を持つように。」
「…はい。すみませんでした。これからはナナバさんにちゃんと相談します。」
「分かってくれたら良いんだ。」


ナナバさんはそう言うと、私を押さえつけていた手を離して今度は私をすっぽりと抱きしめた。
それが嬉しくって背中に手をまわして抱きしめ返すと、今度は瞼にキスが降ってきた。
良かった。もう怒ってないみたい。


「それにしても、1度ゲルガーには私達のことよーく分からせないといけないね。ねぇ、名前はどうしてやるのが良いと思う?」


前言撤回!ナナバさんめちゃくちゃ怒ってます!黒いオーラが出てますっ!
でもこれはナナバさんには内緒だけど、いつもどこか余裕のあるナナバさんでも、ヤキモチを妬いたりするんだと知って私は少し嬉しかった。


 
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