世界の色はいつだって


最近、私の世界はちょっと荒んでる。
原因はもちろん…ジャンに会えていないから。どうして同じ104期なのにこんなに会えないんだろう。最近は班別に訓練するようになったからかな。


訓練終わりでわいわい賑やかな食堂。でも、どれだけ探してもジャンの姿は見つからなくて。


「あー。ジャンが足りないー。」
「…えーっと、つまり…そのパン食べて良いって事ですか?」
「どーしてそうなるっ!?寂しくてもお腹は減るの!」


隣を見るとサシャが狩人のようなギラついた目で私のパンを狙っていた。横取りされる前にさっさと食べちゃお。


(はぁ…ジャンに会いたいな…。)


触れたいなんて贅沢は言わないから、少しだけで良いから顔を見て話がしたい。パンを口に放り込みながら、私はずっとジャンのことを考えていた。


「そんなに会いたいんならもう会いに行っちゃえば?」
「ハンナ…。そうは言うけど男子部屋に乗り込むのは…あれ!?ハンナはフランツと会えなくて寂しくないの?」
「私とフランツは同じ班だから。」
「…ああ、なるほど。」


羨ましい!羨まし過ぎる!心なしかハンナさんキラキラして見えます。私もジャンと同じ班だったらなぁ。


「ジャンも名前に会えなくて寂しがってるだろうね。」
「うーん。こんなに会いたいと思ってるのは私だけだと思う。きっとジャンの頭の中は、俺って立体機動上手すぎるぜ!フハハハハ!とか考えてるんじゃないかな。」
「そんな事ないよ。だってジャンと名前は彼氏と彼女なんだから。」


彼氏と彼女か…。確かにそうなんだけど。次はいつ会えるのかな…なんて、ここ何日かはそんな事ばかり考えて悶々としてる自分が居る。もうこれ以上寂しい気持ちにならない様にさっさと寝ちゃおう。


「ハンナ、私先に部屋に戻るね。」
「うん分かった。お休み名前。」
「うん、また明日。」


ハンナと別れて一足先に食堂を出た私は部屋に戻ろうと歩いていたけど、少し進んだ所でピタッと足が止まってしまった。


(…え?…ジャン?)


それは腕を組んで少し気だるそうに廊下の壁にもたれ掛かるジャンの姿を見つけたから。どうしてこんな所に…?


「おう名前。遅かったな。」
「ジャン…ここで何してるの?」
「あ?お前を待ってたに決まってんだろ。」


ジャンの言葉があまりにびっくりで信じられなかった。だって…あのジャンが私を待ってた!?明日は絶対雨が降ると思う!


「どうして私を待ってたの?」
「…それぐらい察しろ、鈍感か。」
「私に会いたかったとか?」
「…悪りぃかよ。」


視線をずらしてガラにもなく少し頬を赤くするジャンが愛おしくて、胸の奥の方がキュンと締め付けられる感じがした。


「ジャーン!」
「おい名前!こんなとこで抱きつくな!誰かに見られんだろ!」


少し声を荒げるジャンの言葉を無視して、私はジャンをギューっと抱きしめた。触れたいなんて贅沢は言わないなんて思ってたのに…いきなり抱きついちゃう私は、自分が思ってたよりも深刻なジャン不足だったんだと思う。


「誰かに見られても良い…。今はこうしてたい。」
「お前なぁ…しょうがねぇなぁ。」


そう言いながらもジャンはしっかり抱きしめ返してくれて、その腕がいつもより力強くて嬉しかった。髪にかかる息が少しくすぐったいのも今日は嬉しい。


(ジャンも私に会えなくて寂しかったのかな。)


そう思うとジャンが愛おしくて、私は腕の力を強くした。


「ジャン…好き。」
「俺も好きだ…名前。」


その言葉で心が満たされていくのが分かる。私の世界に色を付けるのはいつもジャンだ。さっきまで荒んでいた私の世界は、ジャンの存在でジャンの言葉で眩しいぐらいに煌めきだした。

 
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