もうこの手の中に


リヴァイとの出会いは今でも忘れられない。私がまだ都の地下街で生活していた頃、道端で頭から血を流して倒れているリヴァイを見つけたのが始まりだった。


「ねぇ大丈夫!?しっかりして!」
「…誰だ…お前…。」


初めて会った相手なのに何故か放っておけなくて、私は必死にリヴァイを介抱した。幸いにも出血のわりには大したケガじゃなかった様でリヴァイは死ぬことはなく、少しずつ元気になっていった。それから自然と2人で一緒に居るようになった私達は、少ないパンを分け合ったり寒い日は身を寄せ合ったりしてあの地下街で生きてきた。私達はずっと地下街で生きていくんだと思ってた。


でも、リヴァイのもとに調査兵団のエルヴィンさんが来てから私達の生活は変わった。調査兵団に入団することになったリヴァイは地下街を出ることになった。
お前も来いと言ってくれたリヴァイに、迷惑をかけたくないからと断った私をリヴァイは無理やり地下街から連れ出した。


そうして新しい土地で暮らし始め、地下街とは違った平和な生活に盗みの仕方なんてすっかり忘れてしまった頃、私はリヴァイとの子供を授かった。そのまま結婚して、今では上の子が3才、下の子は2才になっていた。


リヴァイと子供達との平和な生活に幸せを噛みしめる一方で、私には1つだけ不安なことがある。リヴァイはあの時私に助けられた借りを返そうと思って、私を地下街から連れ出してくれたんだよね?もし子供ができてなくても私と結婚したの?
初めて会った日から、どうしようもなくリヴァイに惹かれていた私は子供ができた時も、「結婚するか。」って言われた時も嬉しかった。でも、リヴァイはどうなんだろう。
子供たちや私の存在に縛られてることはないのかな。


「マーマー」
「名前、こいつら連れて街にでも行くか。」
「いいの?せっかくの休みなのにゆっくりしなくても。」
「ああ。こいつらも外に行きたそうだしな。」


リヴァイの子供たちを見つめる瞳は優しくて。その瞳を見るたびに不安な気持ちは和らぐけど、やっぱり今でも思い出したように時々不安にかられる自分が居る。


それから4人で街までやって来たのは良いけど、かなり久しぶりに来たから子供たちは大はしゃぎ。それはもう夜に熱でも出しそうなぐらいのはしゃぎっぷりで。


「リヴァイ。疲れてるのにありがとう。この子達すっごく嬉しそう。」
「こいつら…ほんとに嬉しそうだな。」
「今日はリヴァイも居るからね。」


久しぶりのパパと1日中一緒に過ごせる日だから、特に嬉しいんだろうな。
しばらく街をうろうろして、今日の晩ごはんは何にしようかなんて考えていたら、すぐ後ろから知らない人の声が聞こえてきた。


「あれ、リヴァイ!?それに奥さんと子供も一緒!?すごい偶然だね!」
「…ハンジ…エルヴィンも居んのか。こんなとこで何してんだ。」


ハンジさんは初めて見る人だけど、エルヴィンさんって…リヴァイを引き抜きに地下街まで来た人だ!何年ぶりだろう。言葉を交わしたことはないけど、エルヴィンさんの顔はよく覚えてる。


「やぁリヴァイ。ちょっとハンジの買い出しに付き合わされているんだ。」
「お前ら暇なのかよ。」
「…君は確か地下街でリヴァイと一緒に居た…。」
「名前です。エルヴィンさんお久しぶりです。」


喋ったことは無いんだから初めましての方が正しいのかもしれないけど。でも、エルヴィンさん私のこと覚えてくれてたんだ。


「ああ、君か。リヴァイがどうしても連れて行きたいやつがいるって言ってたのも、結婚したのもやっぱり君だったのか。」
「…え?」
「おい。エルヴィン余計なこと喋んな。」
「ママぁー!だっこー!」


せっかくエルヴィンさん達と会ったばっかりなのに子供たち2人は、はしゃぎ過ぎて疲れたのかだんだん不機嫌に…。下の子はとうとう泣き出す始末で。


「すみません騒がしくって。」
「こいつら機嫌悪ぃな。帰るか名前。」


えっ、でも…と言う私の言葉は気にせずにリヴァイはエルヴィンさんとハンジさんに「じゃあな。」と言って歩き出した。


「すみません。ハンジさんエルヴィンさん、失礼します。」
「ああ。名前さん、また良かったら子供達と一緒に本部に遊びに来てくれ。いつでも待ってるよ。」
「…ありがとうございます!」


エルヴィンさんの温かい言葉と笑顔が心に沁みて、リヴァイを調査兵団に誘ってくれたのがこの人で良かったなって思った。


リヴァイと子供達を1人ずつ抱いて歩く帰り道。日は沈みかけ、子供達は2人とも疲れてすっかり眠ってる。


「こいつら日に日に重くなるな。」
「うん。いっぱい食べるからね。」


歩きながら私はさっきのエルヴィンさんの言葉を思い出していた。どうしても連れて行きたいやつって…私のことで合ってるよね…?


「ねぇリヴァイ。…どうして私を地下街から連れ出してくれたの?」
「あ?いきなり何だ。」
「…ずっと気になってたの。あの時私に助けられた借りを返そうと思ってくれたの?」


私の言葉にリヴァイは心なしか少し呆れた様な顔をしてる。


「んなの決まってんだろ。お前がいねーとつまんねぇからな。」
「つまんねーって…何それ。」
「それに好きでもない女と結婚する奴なんて居んのかよ。俺には考えられねぇな。」


あまりにリヴァイらしい言葉に思わず口元が緩んだ。確かにリヴァイは中途半端な気持ちで相手に子供を産ませるような人じゃない。それはずっと一緒に居た私が1番知ってるはずなのに、私、1人で勝手に不安になってた。


(ごめんね、リヴァイ。)


私の幸せを繋ぐ糸は子供達じゃなくて、もうずっと私の手の中にあったんだ。

 
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