君と僕とで響く青
本当はずっとエレンが好きだった。他の104期の男子達に抱いてる仲間としての好きとは全く違う「好き」で、私は初めての恋を知った。
だからこの前、エレンがいつもは見せないような赤い顔をして「名前が好きだ!」って言ってくれたこと本当は涙が出そうなぐらい嬉しかったんだよ。でも、その時私の頭に浮かんだのはミカサのことで…。私がエレンに自分の気持ちを伝えたら、ミカサが悲しむと思ったの。だってミカサがエレンを見る目は、ただの家族を見るそれとは少し違うから。他の誰かを傷付けてまで自分が幸せになるなんて許されることじゃないよね。
「名前お疲れ様ー!今日も疲れたね。」
「ミーナ!お疲れ様!ほんとにね。もうヘトヘトだよ。」
「名前も今から食堂行くでしょ?」
「あー私はちょっと立体機動の整備してから行こうと思う。先に行っててくれる?」
「分かった。じゃあまた後でね。」
空が群青色に染まり1日の訓練を終え訓練場から出ようとした時、まだ立体機動の練習に励むエレンが目に入った。ジャケットを脱いで、全身土でドロドロで。その姿がエレンらしくて好きだなぁって思った。ミカサには悪いけど、エレンを好きなこの気持ちは簡単には消えてくれそうにないな…。
そんなエレンの姿を木の陰からこっそり見つめていると、自分の足もとに土で汚れたジャケットが落ちているのに気が付いて、私はそれをそっと拾い上げた。きっとエレンのだ。
「あーあ。こんなに汚しちゃって。」
土で汚れてる部分を手ではらってみても、あまり綺麗になってくれない。だったらせめて綺麗にたたんで置いておこう。訓練兵団のジャケットをこんなに雑に扱ってたら、エレンがキース教官からとんでもない罰を受けちゃうかもしれないし。
でも、その前に…。
「…少しだけなら…良いよね。」
私は手に持っていたエレンのジャケットを胸に抱きしめた。エレンが好きで堪らないくせに、本当の気持ちを偽ってしまった自分。エレンはあんなにも自分の気持ちを真っ直ぐにぶつけてくれたのに。でもね、エレン…私はやっぱり…。
「エレンが…大好き。」
気の強いところも、一生懸命なところも、たまに熱くなり過ぎて周りが見えなくなっちゃうところも、エレンの全部が好きだよ。
「…名前?何やってんだ?」
「エレン!?」
その声にびっくりして顔を上げると、少し驚いた表情をしたエレンがすぐ傍に居た。私は両手でエレンのジャケットを抱きしめたままで…。
「何でもない!」
「おい名前待てよ!」
「じゃあねエレン。これ落ちてたよ。」
「待てって!」
ジャケットを渡そうとした私の手をぐいっと引いて、木を背にエレンに両手を押さえつけられる。少し見上げると、真っ直ぐに私を見降ろすエレンの視線とぶつかって思わず目を逸らした。
「何でもなくはないだろ。」
「…本当に何でもないの。」
「じゃあどうして泣いてるんだよ名前!」
エレンにそう言われるまで私は自分の瞳から零れる涙に気が付かなかった。
「名前は俺のこと好きじゃないって言ったよな?」
「うん…好きじゃ…ない。」
「それ俺の目見てもう1回ちゃんと言えよ!」
そんなこと…できるはずが無い。だって本当は好きで堪らないのに。それにエレンにそんな切ない顔されたらもうこれ以上、自分の気持ちに嘘付けないよ。
「…エレンが…好き…。本当は…ずっと好きだったの…。」
「名前…。」
「でも、ミカサのこと…悲しませたくなくて…。」
エレンは「どうしてミカサが出てくるんだよ!」って言って少し怒った顔をした。だってミカサはエレンのこと…。
「あいつは俺の大事な家族だ。話せば分かってくれる。」
「…そうかな…。」
「やってみないと分からないだろ。どうしてまだ何もしてないのに諦めるんだよ。」
確かにそれはそうだと思った。私はミカサに自分の気持ちを1度もぶつけたことは無かった。分かってもらう努力もまだ全然していない…。エレンの言う通りだ。
「…私もミカサに認めてもらえるように頑張る!やっぱりエレンを好きな気持ちだけは諦められないの。」
エレンは押さえ付けていた私の両手を離すと、ギュッと私をその腕で抱きしめた。とてもぎこちなく、でも力強く。
「なぁ名前。これ夢じゃないよな。」
「うん…夢じゃないよ。私はエレンが大好き。」
「俺も…名前が好きだ!」
そう言って赤い顔をしたエレンの背中に手をまわして抱きしめ返す。ミカサのことを思うと、きっとこれからは簡単な道のりじゃないと思う。でも、どんなに困難な状況でも決して諦めずに何度でも立ち上がろうと思った。
私の大好きなエレンのように…。
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