今もずっと…


「ねぇナナバ、私行きたい所があるんだけど。」
「どこ?ネズミーランド?」
「ネズミーランドは確かに楽しかったけど、この前行ったばかりでしょ。今度は違う所!」


情報雑誌を片手に話す私を見て、ナナバは「ああそっか。でも名前凄く気に入ったみたいだったから。」と柔らかく微笑んだ。昔から変わらないナナバのこの笑顔が私は何よりも大好き。

前世でも恋人同士だった私達は、2人とも前世の記憶を持ったまま生まれ変わり、信じられない様な確率で現世で出逢いもう1度恋に落ちた。自分でもこんな境遇の私達は本当に奇跡だと思う。


「それで今回はどこに行きたいの?名前。」
「えっとね、ここ!」


私が指差したのは、今私達が住んでいる街の夜景が見渡せるこの雑誌イチオシの展望台だった。


「相変わらず名前は高い所が好きだね。」
「うん。そうかもしれない。」


昔もよく2人で壁に登っては壁外の景色や星空を眺めたっけ。すごく昔のことのはずなのに、まるで昨日の事のように思い出せる。昔と比べると、人間を食べる巨人もいない今は平和だなぁ。
だからこそ、平和な今を…もう1度ナナバと過ごせるこの時間を私は大切にしたいの。


「じゃあ今日仕事が終わったらここに行こうか。」
「やった!ありがとナナバ!」



そうしてやって来た展望台は、人気スポットだけあってカップルだらけ。みんな幸せそうに手をつないだり、寄り添ったりしている。
こんな幸福な空気だけで満たされている場所なんて昔はなかったなぁ。


「それにしても凄い眺めだね名前。」


ナナバの言うように私達の目の前に広がるのは、思わず息をのみそうになるほどの美しい無数の街の光だった。


「…うん。」
「どうしたの?冴えない顔して。楽しくない?」


ナナバの問いかけに私は首を横に振った。楽しくない訳じゃない。ただ、昔2人で壁の上から見た質素な町の灯りとは全く違う景色が少し寂しかった。


「凄く綺麗だけど、昔とは変わっちゃったなぁと思って…。」
「そうだね。あの頃の景色とは全然違うね。」


そう言うと、ナナバは私を後ろから抱きしめた。周りには他のカップル達も居るから少し恥ずかしい。


「ナ、ナナバ!他の人達も居るんだよ!」
「誰も私達なんて見てないよ。それより名前、上を見てみて。」
「…上?」


ナナバに促されるままに上を向くと、さっきまで眼下に広がる夜景にばかり気を取られていたせいで気付けなかった星空がそこには広がっていた。


「…あ…星…。」
「この星空は昔名前と2人で見た時から何も変わってないよ。」


ナナバの言葉通り、この星たちの輝きはよく見憶えのあるものだった。決して変わることのない控えめな煌めきたち。


「…うん。本当だね。この星空は昔と一緒。」
「そうだよ。それに…私が名前を想う気持だってこの先も変わりそうにない。」


そう言うと、ナナバはギュッと私を抱きしめている腕の力を強くした。


「私もナナバが大好き。昔も今もずっと…。」


むしろ昔よりも好きな気持ちが大きくなっている気さえする。ナナバを愛しいと思う気持ちが込み上げてきて、振り返ると目が合い重ねられた唇。

それは2000年前と変わらない優しい口づけだった。

 
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