ハッピーエンドのその先へ


片想いをずっと続けられたら、その恋は終わることがなく幸せなのかもしれない。
でも私は、そんな幸せなら欲しいとは思わない。
好きだからやっぱり触れたりしたいって思うし、誰よりも1番近くに居たい。
だから、その願いが叶わないのなら、もうこんな不毛な片想いは卒業しようと思う。

私だって、前を向いて歩きださないといけないんだ。いつまでもこの片想いをずるずると続けるわけにはいかない。


「ハンジ分隊長、お話があります。」
「何?どうしたの、名前?」


2人きりの研究室で、実験結果を書類にまとめているハンジ分隊長の前に立って私は言った。もう、何度目かも分からないハンジ分隊長への告白。たぶん100は軽く超えてるだろうなぁと思う。
でも、それも今日で終わり。


「今まで散々好きだって言って、ご迷惑をおかけして本当にすみませんでした。もうこれ以上ご迷惑をおかけするわけにも行きませんし、そういうのは今日で最後にします。」


ハンジ分隊長は、きっといつもの様にまた私が好きだって言い出すんだと思ってたと思う。でも、今日はそれだけじゃない。ちゃんと自分の気持ちと決別するんだってことを、ハンジ分隊長にも聞いてもらいたかった。もうこれ以上は付きまとったりしないから、安心してもらいたかった。


「どうしたの急に。今日はいつもの名前とは随分違うね。」
「はい。もう決めたんです。だから最後にもう1度だけ私の気持ちを聞いて下さい。」


私の真剣な表情に、「うん、分かった。」って言ってハンジ分隊長は椅子から立ち上がり、私の目をちゃんと見つめてくれた。ちゃんと私の話を聞こうとしてくれているのが嬉しくて、私はもうそれだけで充分幸せな片想いだったなぁって思って頬が緩んだ。


「…私は…ハンジ分隊長が大好きです。」


その声は今までで1番落ち着いていたと思う。もう何回言ってきたか分からないハンジ分隊長への私の想い。
もう最後って決めたから、これからは両想いを夢見ることもできなくなる。そう思うと悲しさや切なさが込み上げて来て、溢れそうになる涙を必死に堪えようとした。


「…名前、私は…」
「大丈夫です!ハンジ分隊長の気持ちは分かってますから。今まで本当にありがとうございました…!」


こんな場面で泣くなんて、それはあまりにも面倒くさい女だからそれだけはしたくなかった。もうこれ以上ハンジ分隊長を困らせたくなかった私は、早口でそう告げて急いで研究室から出ようとした。
もう、これで本当に終わりなんだ。


「…待ってよ名前…!」


でも、研究室のドアに手をかけようとした時、私は動けなくなってしまった。
ハンジ分隊長が強い力で私を後ろから抱き締めたから…。

「ハンジ…分隊長…?」

悪い冗談ならすぐに止めて欲しい。
こんな事されたらハンジ分隊長のことを忘れられなくなる。もう、前を向いて歩くって決めたのに…。


「…モブリットのところに行くの…?」
「そうじゃないですけど、この気持ちとはちゃんと決別しなきゃいけないと思って…。」


私を解放するどころか、ハンジ分隊長はますます強い力で私をその腕に閉じ込めようとする。なんで最後の最後でこんな事するの…?
やめて下さいって言おうとしたけど、先に口を開いたのはハンジ分隊長だった。

「他の男のとこになんか行かせない。」

ハンジ分隊長がそんなことを言うなんて、信じられなかった。聞き間違いだと思った。聞き間違いじゃなかったら何なんだろう…夢…?


「…どうしてそんな事言うんですか…?」
「…嫌なんだ。名前が他の男のところに行くなんて、考えただけでも腹が立つんだ。」
「…それって…。」


もしかして嫉妬なのでは?と思った。さっきまで諦めかけていた私の恋心は、もしかしてまだ終わってない…?
私は腕を解いて後ろを振り返り、ハンジ分隊長と向かい合う。


「あの、ハンジ分隊長は私のことが好きなんですか…?」
「そうなのかもしれない。名前が他の男を好きになるなんて…そんなの嫌だ。」
「じゃあ、私とリヴァイ兵長がキスするところを思い浮かべたらどんな気持ちですか?」
「何それ!?そんなの考えたくもないよ!」


大きな声を出して取りみだすハンジ分隊長がおかしくて、さっきまで泣きそうだったのにこんどは笑いを堪えることができなかった。私はまだ、ハンジ分隊長を好きでいて良いのかな。

「とにかく、1人で勝手に完結させないでよね。私も名前に対するこの気持ちをもう少しちゃんと解明したいんだから。それに…他の男なんて好きにさせないよ。」


少し拗ねたように言うハンジ分隊長が可愛くって、我慢できなくなった私は背伸びをしてその頬にちゅっと唇を押しつけた。


「…名前…っ!?」
「ハンジ分隊長。やっぱり大好きです。」


もう嫌だって言われても、私はハンジ分隊長から離れない。というよりも、きっと離れられない。これからゆっくりと、距離を縮められたら、ハンジ分隊長の私への気持ちを解明していけたら良いなって思う。
あなたが私をちゃんと好きって言ってくれるその日まで、私は何度でも何度でもこの想いを伝えるから。

 
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