トルソーとお茶会


名前は同じ104期生で、俺やミカサと仲の良い小さくてあまり兵士っぽくない可愛いやつだ。俺がリヴァイ班の一員になったように、みんなそれぞれの班に所属して一緒に過ごす時間が減ってからも、よく兵舎で集まったりと仲良くしている同期の1人だった。


ある日の午後、そんな名前が何故か俺達リヴァイ班と同じテーブルを囲み一緒にお茶ををすることになった。たまたま通りかかった名前を、リヴァイ兵長が呼び止めたのが事の発端だ。


「名前、ここに座れ。」


「ここ」と兵長が名前に指示したのは、兵長と俺の間で…。わざわざ自分の隣に座らせるなんて、この2人何かあんのか…?

名前と2人でお茶の準備をしている間に、「兵長と何かあんのか?」って聞いてみたけど名前から返ってきた答えは「挨拶をするぐらいだよ。」だった。そんな関係でしかない名前を、どうして兵長は呼び止めたりしたんだ。

そもそもどうして兵長は名前のことを知ってるんだ。いや、調査兵団をまとめる人の1人なら新兵の顔と名前を知っていても不思議じゃない。
俺が不思議に思ったのは、どうして潔癖症のリヴァイ兵長がよく知らないはずの名前に自分の飲み物を準備させるのかだ。兵長の性格からして、よく分からない奴に自分の口に入れるものを触らせるなんて絶対にしないはずなのに。


結局、何も分からないまま突然始まったお茶会は進められていく。


「名前、もう兵団には慣れたのか?」
「はい、だいぶ慣れました。所属班の班長もとても良い人で…。」
「そうか。」


何故か名前と兵長の会話には入ってはいけない様な気がして、俺は聞き耳を立てながら、たまにオルオさんの話に適当に相槌を打ちながら紅茶を口へと運ぶ。
もしかして、兵長は名前と一緒にお茶をしたかっただけなんじゃ…?俺の勘違いかもしれないけど、名前に向ける兵長の眼差しはいつもより柔らかい気がした。


「お前、毎日ちゃんと食ってるのか?」
「食べてますよ。訓練のせいかすごくお腹が減るんです。」
「そうか。その割には小せぇな、お前は。」


言いながら名前の頭にポンと手を置いた兵長に、名前は少し恥ずかしそうに笑ってる。
最初は名前を警戒していた先輩方も、兵長の名前に対する態度に安心したのか今はいつもの様に雑談をしていた。オルオさんとペトラさんは、まだ若干名前のことが気になるみたいだけど。


「…リヴァイ兵長はお休みの日は何をされてるんですか?」
「…部屋の掃除だ。」


隣同士に座ってる名前と兵長は、それほどには言葉を交わしていなかった。本当にぽつりぽつりと会話をするぐらいで、沈黙している時間の方が長いんじゃないかと感じるぐらいに。
それなのに、何故かは分からないけど名前は嬉しそうな顔をしてる気がする。

2人のことが気になって観察を続けていると、突然兵長は名前に言った。


「おい、名前。ひとつ教えておいてやる。俺はコーヒーではなく、紅茶派だ。」
「えっ!?そうだったんですか!?それは…気付かなくてすみませんでした。私、淹れ直して来ますね。」
「いや、お前の淹れたコーヒーは悪くない。次から気を付けろ。」


そう言って兵長は席を立とうとした名前の腕を引いて自分の隣に座らせ、そして何事もなかったかの様に、また名前の淹れたコーヒーを啜り出した。
そんな兵長を見つめる名前の瞳は優しく少し熱っぽくて、初めて見る名前の表情から俺は目を離せなかった。


「何かあるのか?」って質問は今思ったらすげぇ野暮だったかもな。いつもとは違う兵長の眼差しや名前の表情から、そういうことには鈍い俺でもさすがに感じるものがあった。きっとこの2人は同じような気持ちを胸に抱いてるんだろうな…。


「エレン、ねぇエレン。リヴァイ兵長ってやっぱりすっごく素敵な人だね。」


考え込む俺の耳元で、兵長には聞こえないように小声で言った名前のその笑顔は、今までで1番眩しく煌めいて見えた。

 
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