悔しいけれど君が好き


「ねぇ、ジャン。あれ放っておいて良いの?」
「何だよ、アルミン。」
「何だよって分かってるんでしょ?名前さんのことだよ。嫌じゃないの?」


アルミンにそう言われて俺は心の中で舌打ちをした。言われなくてもそんなの分かってんだよ。嫌に決まってんだろうが。

並んで飯を食う俺とアルミンの視線の先には、何故かエルヴィン団長、リヴァイ兵長、ハンジ分隊長の調査兵団幹部と一緒に飯を食う名前の姿。

別に一緒に飯を食ってるだけなら、俺もこんなにイラついたりはしない。でも、さっきからリヴァイ兵長は名前の頭を撫で、ハンジ分隊長は名前に抱き付いたりと、こんなの見せられてイラつかない訳がねぇだろ。

エルヴィン団長も笑ってねぇで止めさせろよ!!名前もニコニコ笑ってねぇで拒否しろよ。俺の女だろ…。勝手に他の男に触らせてんじゃねぇよ。


「まぁ、名前は調査兵団4年目で優秀だし、上司に気に入られるタイプなんだろうな。」
「冷静に分析してる場合じゃないでしょ。ちゃんと名前は俺のものだ!!って示さないと。」
「そんな事できるかよ。相手はあの2人だぞ。」
「でも、そうしないと名前さんへの上官方のスキンシップはますますエスカレートすると思うよ。ジャンはそれでも良いの?大好きな名前さんが他の人にあんな事やそんな事されても…。」


良いわけねぇだろ…。それに何だよ、あんな事やそんな事って。アルミンが言うと説得力があるから、ほんとにそうなっちまいそうで怖ぇだろうが…。

「…チッ!くっそ…!」

ガタンッ!と俺は勢いよく席を立った。下手なこと言ったらリヴァイ兵長あたりに削がれるかもしれねぇけど、俺だってアルミンにここまで言われて黙ってられねぇ。

背中越しに聞こえたアルミンの声援に頷き、俺は名前と上官方が囲んでいるテーブルの前に立った。いきなり目の前に現れた俺に、名前はきょとんとしている。


「…ジャン?どうしたの?」
「何だよジャン!もしかして私から可愛い名前を奪いに来たの!?そんなの嫌だぁーっ!!」


そう言ってハンジ分隊長はまた腕を伸ばし、名前を抱き締める。リヴァイ兵長は何も言わずに、エルヴィン団長は薄ら笑いを浮かべながらこっちを見てやがる。


「…そうです!!名前は俺の女なんで…気安く触らないで下さい!!」
「…ジャン…。」
「そんなこと言われても!!私だって名前が可愛いんだから仕方な…」
「ハンジ、止めておけ。ジャンの主張はもっともだろう。」


騒ぎ立てるハンジ分隊長を制止したのは、意外にもエルヴィン団長だった。団長にそう言われたハンジ分隊長は、「でも…私だって…。」とぶつぶつ言いながらもさっきまでの勢いはなく、すっかり意気消沈してしまった。

「気安く触って悪かったな。」

リヴァイ兵長は言う。全く悪びれる様子もなく。この人絶対反省してねぇだろ!

「ジャン、若いって良いな。」

エルヴィン団長に笑顔でそんな事を言われた俺は、この状況が一気に恥ずかしくなり、名前の手を引いて足早に食堂を後にした。



「ジャン!…ねぇジャン待って!」
「何だよ。」


自分のやっちまった事の恥ずかしさのあまりに、あてもなく名前の手を引いて歩いていた俺に、名前は少し大きな声で言う。


「…ごめんね?食堂でのこと…。私がちゃんと拒否したら良かったね…。」
「名前が謝ることじゃねぇだろ。はっきり言ってやってすっきりしたしな。」


これで暫くはハンジ分隊長もリヴァイ兵長も名前に触ったりしないだろ。それに…同じ様な事が繰り返し起こるんだったら、俺は恥を捨ててまた何度でも主張してやる。名前に触んなって。


「でも、ジャン凄いね。あの2人にあんな事言うなんて。新兵なのになかなかやるじゃない。」


そう言って名前は微笑んだ。いつだって新兵で、名前より年下の俺ばかり余裕がなくてかっこ悪ぃ。そのことが悔しいと同時に腹立たしかった。

(何でお前はいつもそんなに余裕なんだよ。)

そう思った瞬間、俺はうなじを引き寄せ名前の唇を塞いでいた。俺の突然の行動に、名前はくぐもった声を漏らす。

唇を離し顔を覗き込むと、名前は俯いて俺と視線を合わせようとしない。
やっちまったと思った。こんな誰に見られてるか分からない所でいきなりキスなんてしたら、そりゃあ名前でも怒るだろ。


「…怒んなよ。俺が悪かったよ。」
「…怒ってるんじゃなくて恥ずかしいの!キスなんて何回しても恥ずかしいのに…こんな…突然されたら…。」


いつも余裕のくせにその表情は反則だろ。
赤くなった顔を両手で覆うように隠した名前を、俺は堪らなくなって抱き締めた。

悔しいけど、俺は心底名前に惚れてるみたいだ。

 
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