陽だまりに落下したやわらかい果実


「こいつほんとによく寝るよなぁ。」
「エレンが帰って来る直前まで、泣きやんでくれなくて大変だったんだからね。絶対に起こしたりしないでよ。」
「分かってるって。」


私達の視線の先にはスヤスヤと眠る今月で3ヵ月になる可愛い我が子。
エレンは少し拗ねたような口調でそう言ったけど、本当に分かってるのかなぁ。

この間も、自分が帰って来てからもずーっと眠ってたのが寂しいからってわざわざ起こしたりなんてするから、大泣きしてそれはそれは大変だった。

エレンが責任を持って寝かしつけてくれるならまだしも、「おい嘘だろ…名前。こんなのどうやって…。」とか言って完全にお手上げ状態だったのがつい先週の話。大泣きしてる子供を泣き止ますのは気合いだけではどうにもならないみたい。


「なぁ、名前。こいついつ頃喋りだすんだろうな。」
「それはまだまだ先だと思うよ。まだ首も座ってないんだし。」
「だよなぁ。早くこいつと喋りてぇな。」


そう言いながら息子の頬を指でつつくエレンの瞳は優しくて。こうやってエレンと他愛のないことを話しながら3人で過ごす時間は、私にとって何よりも幸せな時間だと感じる。


「エレンはこの子と何を話したいの?」
「巨人についてに決まってんだろ。」


なるほど。エレンらしい返答をありがとうございます。
確かにこの世界で生きて行くには巨人についてはとっても大事なことだけど、もっと色んな楽しいことについて教えてあげて欲しいなぁ。まだ生まれてきたばっかりなんだし。それに巨人については、嫌でも知らなければならない日が来るんだから。


「それにしてもこいつの初めての言葉は何になるんだろうな。」
「うーん。私の予想では『へーちょ』だと思う。」
「はぁ!?どうしてリヴァイ兵長が出てくんだよ!俺の子だぞ!」


大きな声で言うエレンの口を慌てて塞ぐと、「わ、悪ぃ…。」と申し訳なさそうな顔。部屋に響くほどの声だったのに、息子は相変わらず気持ちよさそうに眠っていて。この3カ月の間にお父さんの大きな声にもすっかり慣れちゃったのかも…。


「だってエレン、家で兵長の話ばっかりするじゃない。」
「それは…そうかもしれねぇけど。でも俺は『父さん!俺も調査兵になる!』だと思うな。」
「いきなりそんなに喋ったら怖いから!逸話になっちゃうから!」


エレンの信じられないような発言に思わず声が大きくなってしまい、今度は私が「静かにしろよ。」って言われる番だった。確かに今のは私が悪かったけど、エレンは子供の発育がどんな感じなのか全く知らないんじゃないかな。巨人以外のことも学んでもらわないと…。


「エレンはこの子に調査兵になって欲しいの?」
「当たり前だろ。俺の子なんだから。将来はこいつと一緒に巨人を駆逐するんだ。名前はそう思わねぇのか?元調査兵なのに。」
「…うん。私はこんな世界でも、少しでも生まれてきたことを幸せに思ってくれたら、もう何でも良いかなぁって思ってる。」


それが調査兵団でも、開拓地でも。エレンが壁工事団とか言っちゃう駐屯兵団でも。この子がどんな道を選んだとしても、少しでも幸せを感じることができたらって私は願ってる。


「この世界はなかなか残酷だからね。自分の幸せを見つけるのもけっこう大変なぐらいに。」
「名前…。俺は、こんな世界だけど、この世界に生まれてきて良かったと思ってる。」
「…エレン…。」
「名前に出逢えて…俺は幸せを見つけられたんだ。」


そう言って私を力強く抱きしめるエレンの背中に、腕をまわして抱きしめ返す。
私もエレンと一緒。エレンと出逢えてやっと幸せを見つけられたの。調査兵団に入って外の世界を知ったからじゃなく、両親の仇である巨人を倒したからではなく。


「…私も…幸せだよ。」


私はあたたかいエレンの腕の中で、そっと我が子に視線を向ける。

この世界は本当に残酷で、生きる為には必死に足掻かないといけない。もう立ち直れないんじゃないかってぐらいの辛い別れもあると思う。でも、安心してね。私があなたのお父さんに出逢えた様に、幸せだと思える瞬間はきっとあるから。

 
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