一分前の思考を消去


「リーヴァイっ!今日も可愛いっ!」
「…チッ。名前、止めろ。」


嫌です。止めません。だってリヴァイは今日も私より小さくて、目付きが悪くて、なかなか懐かない猫みたいですーっごく可愛いんだもん!悪いのは私じゃなくて可愛いリヴァイです。


「手ぇ離せ。」
「いや!」


こうやってリヴァイの姿を見つける度に、後ろから抱きつくのはもう私の日課。今朝も廊下でリヴァイの後ろ姿を見つけた瞬間に、ダッシュしてこの体勢に。

こんなに密着してるけど、別に恋人関係という訳ではありません。むしろ私はペット的な感じでリヴァイのことが大好きです。


「おい、頭撫でんの止めろ。うぜぇ。」
「そんなこと言われても…。」


それはなかなか無理な相談だなぁ。可愛い者を撫でたくなるのは、自然の摂理と言いますか…。人間の本能と言いますか…。何せ仕方の無いことだと、私は思うのです。
その事をリヴァイに伝えると、


「お前に理性はねぇのか、この愚図。」


って吐き捨てるように言われる始末。
…失礼な!ちゃんと理性があるから、訓練中とか壁外調査中とかは我慢してるでしょうが。理性がなかったら、それが例えどんな場所でも抱きつきます。撫でまわします。


エルヴィンやハンジは、こんな私達を見ていつも笑う。「いつ見ても仲良くじゃれてるな。」って。
リヴァイにこんなことをできるのは、どうやら私だけらしい。
他の子がリヴァイに抱きついたり、頭を撫でたりするなんて、想像するだけでも嫌だ。


(リヴァイにこういう事して良いのは私だけなんだもん。)


「名前、お前は俺のこと何だと思ってやがる。」


頭を撫でていた私の手を払い除け、怖い顔でリヴァイは突然そんなことを言う。何って…それはもちろん…。


「可愛いペット…?」
「…チッ。舐めてんのかてめぇは。」


そう言うと、リヴァイは突然私の腕を掴んだかと思うと、そのままダンっと廊下の壁に押し付ける。その衝撃に背中に鈍い痛みが走った。


「…っ…リヴァイ…?」


痛みのせいで反射的に瞑った目を、ゆっくりと開けると、今にも唇と唇が触れそうな程近くにあるリヴァイの顔。
そのあまりの近さに、私の心臓は今まで感じたことがない位に高鳴った。


「名前。お前、俺が男だってこと忘れてんだろ。」
「…忘れてなっ…んんっ…!」


あまりにも突然だった。噛みつく様にしてされるそれは、もうキスなんて可愛いものじゃない。
とっさに固く引き結んだ私の唇は難なくこじ開けられ、舌を絡めとられたかと思うと、あっという間に呼吸まで乱れさせられる。


「…はぁっ…あっ、ん…っ…」


自分のものとは思えない甘い声があまりに恥ずかしくて。リヴァイから離れたいのに、私の手を力強く壁に押さえつけているリヴァイの両腕がそれを許してはくれない。


「…んんっ…っ…」


息は苦しくて、全身の力は抜けそうになる。突然の嵐のようなキスに限界を感じ始めた頃、リヴァイはやっと私を解放すると、低く言った。


「ざまあみろ。」


それだけ言って立ち去るリヴァイの背中を見送りながら、私はヘナヘナとその場に座り込んだ。


(ファーストキスだったのに…。)


ドキドキと大きく脈打つ心臓の音。濡れた唇。突然あんなキスをされたのに嫌じゃなかった自分。そのどれもが恥ずかしくて消え入りたい気持ちだった。

ペットに牙を向かれた人はこんな気持ちになるのでしょうか…?


「…やっぱり…可愛くない…。」


だんだんと遠ざかっていくリヴァイの背中を見つめながら、私は1人呟いた。

 
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