もし明日世界が滅亡するとして


「…え?…冗談でしょ…?」
「冗談じゃねぇ。」


いつものように仕事から帰ってきたリヴァイが私に告げたこと…。それはあまりにも急で、私にはショック過ぎることだった。


「…そんなの…聞いてない…。」
「さっき決まったことだ。」


リヴァイは明日から自分が編成した特別作戦班と一緒に、この家からは遠く離れた旧調査兵団本部で1ヶ月過ごしたあと、そのまま壁外調査に出ることになったらしい。もちろんその間は家には帰って来れない。こんなことは私がまだ調査兵だった頃も、引退したあとも1度もなかった。


「じゃあ…次いつ会えるの?」
「それはまだ分からねぇ。」


表情ひとつ変えずに言うリヴァイが腹立たしかった。この状況が悲しくて仕方がないのは私だけで、リヴァイは仕事だからと割り切ってる。でも、もしリヴァイが次の壁外調査で死んだら、一緒に居られるのは今日が最後になる。

(…そんなのあまりにも突然過ぎる…。)


「…もう…会えないかもしれないじゃない…。」
「そんなわけねぇだろ。」
「どうして言い切れるの!?そんなの分からないじゃない!!リヴァイの馬鹿!!」


叫んだ私はそのまま家を飛び出した。
私が1番悲しかったのは、もう会えなくなってしまうかもしれないことよりも、こんな状況なのにリヴァイは全く普段通りだったこと…。リヴァイは私と会えなくなることを何とも思ってくれないの…?




「何とも思ってないわけないと思うけどなぁ。」
「でもリヴァイは表情ひとつ変えなかったんだよ。明日からのことを私に話してる時も淡々としてたし…。」


後先考えずに家を飛び出した私は、調査兵時代から仲の良いハンジの研究室に来ていた。リヴァイと何かあると、こうやってハンジの所に来るのはもう習慣になっていて、いきなり押し掛けてもハンジはもう全く驚いたりはしない。


「でもさぁ、名前。本当にリヴァイが名前と離れることを何とも思ったりしないんだったら、あの時名前に調査兵を辞めるようになんて言わなかったと思うよ。」


ハンジの言うあの時とは、私とリヴァイが結婚した時のこと。
リヴァイは私に調査兵を辞めろと何度も強く言った。最初は辞めるなんてことは全く考えられなかった私だったけど、結婚してからは兵士長としてみんなを率いるリヴァイを支えたいと思うようになり、自分の意志で引退して今に至る。


「名前と離れたくない…失いたくないって気持ちは、リヴァイの中にも強くあると思うよ。」
「そう…なのかな…。リヴァイも…」


その時、バターンっとドアが乱暴に開いて私は言いかけた言葉を呑みこんだ。ノックもなしにこんなに乱暴にドアを開ける人を私は1人しか知らない…。


「やっぱりここか。おい名前、さっさと帰るぞ。」
「…リヴァイ…。」


私がよくここに来てることはリヴァイも知っていたけど、あんなに一方的に叫んで飛び出してきたのに…まさか来てくれるなんて思ってなかった。

…だから私は、嬉しかった。


「ほらさっさとしろ。」
「…帰るけど…条件がある…。」


そう言うと、リヴァイは呆れた顔でため息を吐いた。


「…何だ。」
「…今日は……ずっとギュっとしたままで寝てくれる…?」


私の出した条件。リヴァイには面倒くせぇって言われると思ってた…。


「俺は元からそのつもりだ。」


でも、まっすぐに私を見据えてリヴァイが放ったその言葉に、ハンジの言った通り離れたくないのは自分だけではなかったことを知る。




その日の夜、約束通りリヴァイは私を抱きしめて離さなかった。それは、少し息苦しいと感じるぐらいに…。


「名前…心配すんな。俺は必ず帰って来る。」
「…本当…?」


訝しげな私はすぐには「うん。」とは言えない。だって確かにリヴァイは強いけど、一歩壁外に出たらいつも情報不足でどんなことが起こるかなんて誰にも分からないもの。


私はいつだってリヴァイを失うのが怖い。


リヴァイは、そんな私を真っ直ぐに見つめて言った。


「名前、お前はただ俺を信じて待ってろ。」


何の根拠があってリヴァイがそんなことを言えるのかは分からない。
でも、その強い瞳に、気が付けば私は頷いていた。


「…うん…待ってる。」


あなたがそう言うのなら、私は信じて待ってみようと思う。
他の何よりも、信じることができるあなたを。


でもそれよりも、あなたの腕も声もあたたかな体温もちゃんとここにあるから、今はただ、この腕の中のぬくもりを感じていたい。




 
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