ふわりのこと


ベルトルト君は、かっこいい。

何でも卒なくこなして成績は優秀。それでいて自己主張は強くないし、ギャーギャーうるさい周りの男子達にもベルトルト君を見習って欲しい。特にジャンとかコニーとか。

今日も気づいたら彼をずっと目で追ってしまう自分がいて…。この想いは私の一方通行だってことは分かってる。それでもただベルトルト君を想ってるだけで、毎日彼の姿を見られるだけで私の胸は幸せでいっぱいだった。


「名前、どうしたの?」
「ぅわぁ!」


ガッシャーンと食堂内に響く大きな音。ぼーっとベルトルト君を見つめていたら、まさかの本人に話しかけられ、びっくりして夕食の乗ったトレーを落としてしまったバカな私。


「ご、ごめん!ちょっとぼーっとしてたみたい!…痛ッ!」
「名前!?大丈夫!?」


いきなり目の前に現れたベルトルト君の存在に、焦りながら割ってしまったお皿の破片を拾い集めていると、突然鋭い痛みが指先に走った。


「これぐらい大丈夫だから!」
「でも血が出てるし、医務室に行った方が良いんじゃないかな。」
「ベルトルト、ここは任せろ。俺が片づけておく。」
「ありがとうライナー。ライナーもこう言ってるし、ちゃんと手当しに行こう。」
「……うん。分かった。」


それから2人で並んで歩いた医務室までの間、私は今自分に起きている出来事は夢なんじゃないかと何回も疑ってしまった。


「名前、手見ても良い?」
「…うん。ごめんね。」


医務室に着くと、私の手を取って心配そうに傷口を眺めるベルトルト君の視線が、名前を呼んでくれることが嬉しくて、ふわふわと宙に浮いてしまいそうな感覚がした。触れられてる手は熱くて、自分のものじゃないような気さえしてくる。


「ごめん…。痛いよね?すぐに終わらせるから。」
「ううん。全然痛くないよ。私の方こそ迷惑かけてごめんね。」


私がぼーっとベルトルト君に見惚れてしまってたから、こんなことになっちゃった。せっかくの夕食の時間だったのに…。


「…僕が…したくてこうしてるんだから…名前が謝る必要なんてないよ。」


そう言って、ベルトルト君が私の傷口を消毒しながら優しく微笑むから、その表情につられて私も思わず笑顔になる。やっぱり私の見る目は間違ってなかったと思う。


「ベルトルト君は…優しいよね。」


ベルトルト君の中の私の存在なんてあって無いようなものかもしれないけど、それでも、今こうして同じ時間を共有できてることが嬉しい。


「そんなことないよ。僕は…ただ…名前のことが…。」
「え?私がどうしたの?」
「ううん!やっぱり何でもないよ!それより名前は…どうしてぼーっとしてたの?」


突然のその問いかけに、まさか本当のことなんて言えるはずもない私は、少し俯いてから答えた。


「…えっと…その…。ちょっと疲れてたんだと思う!」
「そっか。毎日大変だからね。特に女の子には過酷だよね。」


ベルトルト君が何気なく言った「女の子」の言葉が、私にはとっても嬉しかった。この想いを伝えるなんてまだまだ実行できそうにもないけど…。

今日はこうして話をしたり、名前を呼んでもらえるだけで充分に幸せ。でも、この先はもっと一緒に居たいとか、彼女になりたいとか欲張りになっちゃうかもしれないなぁ。


それでも今は、ベルトルト君と巡り合わせてくれてありがとうって神様に伝えたい。


 
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