宵が茜に染まるとき


リヴァイ班である私達は、1ヶ月後に控えた壁外遠征のために長距離索敵陣形の訓練を行っていた。馬に乗って陣形を展開する。何度も壁外遠征を経験してる私達にとってはもう難しくないことだけど、今回が初めてのエレンにとってはやっぱりまだ難しそう。なかなか上手くできなくて、休憩の間も何だか元気がない。


「すみません俺…。まだ皆さんについて行けなくて。」
「しょうがないよ。私も初めは全然ついて行けなかったよ。」


肩を落とすエレンの背中をさすって励ますけど、相当落ち込んでるみたい。


「最初から上手くできたら訓練なんていらないでしょ?だから大丈夫。」
「名前さん…。ありがとうございます。」


エレンはさっきよりも少し元気そうな顔を見せてくれて、その表情に私も安心した。…のも束の間、私達の前に現れた人物の発言によって、またエレンは元気を無くしてしまう。


「おいエレン!次は絶対に俺から2馬身以上遅れるな。」
「は、はい!分かりましたっ!」
「兵長、エレンも頑張ってますしそんな言い方は…。」
「名前、お前はエレンに甘いな。特別な感情でもあんじゃねぇのか。」


怖い顔をしたリヴァイ兵長が、何を言っているのかよく分からなかった。特別な感情…?そりゃあ自分と同じ班の新兵だから、特別可愛いと思う気持ちはあるけど…。


「まぁ良い。休憩は終わりだ。」


兵長の号令で再開された訓練。…でも、エレンはさっきの兵長の言葉にプレッシャーを感じてしまっているのか、少し遅れをとってしまっていた。


「エレン大丈夫だよ!落ち着いて!」
「遅い!エレン遅れるな!」


らしくない兵長の大きな声に青い顔のエレン。このままだとますます遅れてしまうと思った私は、急いでエレンの方に近づこうとした。でも、そこで焦ったのがまずかった。馬の方向を変えるのを失敗してしまい、大きくバランスを崩した私の身体。


(しまった。落ちる…っ。)


「名前!!」


…兵長が私を呼んだ気がした。




次に気がついたらベッドの上で、すぐ隣で椅子に腰掛ける兵長が見えた。


「気がついたか。」
「…はい。すみません兵長。」


窓から見える景色はすっかり夜になっていて、空には綺麗な月まで出てる。訓練中はまだ太陽が高いところにあったのに。一体私は何時間気を失っていたんだろう。


「軽い脳震とうと過労だってよ。」
「…過労?」
「お前、遅くまで地下でエレンの話し相手してたりしただろ。そういうのが祟ったんじゃねぇのか。」


兵長の言う通り、環境が変わってなかなか寝付けないエレンが眠れるまで傍にいたりとか、不安なことを聞いたりとかして最近は寝不足だったかもしれない。…じゃあ私ずっと眠ってたんだ。


「でも、兵長よくそのこと知ってましたね。」
「……ペトラから聞いたんだよ。それより、そんなになるまでエレンを気にかけるなんてよっぽどあいつに惚れてんだな。」


え…?惚れてる?私がエレンに?それは…違う。私が好きなのはもうずっと前から…。


「とにかくあまり私情をはさむな。それと今日はエレンとは面会謝絶だからな。お前また無理すんだろ。」
「私が…」
「あ?何だよ。」
「私が好きなのは兵長だけです!」


静かな部屋に響いた私の少し大きな声。きっと兵長は「俺はガキには興味ねぇ。」とか言うと思ってた。でも、私の予想は外れて…。


「…………。」
「へ、兵長?」


口元に手を当てて、視線は少し斜め下の兵長。それに気のせいかもしれないけど、ちょっとだけ顔が赤いような…。


(もしかして…照れてる!?)


「こっち見んな。」
「え!?嫌です!見たいです!」
「見んなって言ってんだろ。」
「だってそんなレアな顔んぅっ…っ!」


突然、唇に柔らかい感触と兵長のどアップ。あまりに突然すぎる展開に、少し遅れてそれがキスだと理解した頃、兵長は私の唇を離して勝ち誇ったように言った。


「形勢逆転だな。」


兵長の言う通り、いきなりのキスに頬を染めるのは今度は私の番だった。


(あんな表情したり、いきなりキスしたり、ほんとにずるい…。)


目の前には、少し意地悪く笑う私のずるくて大好きな人。

 
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