純情ロマンティック


「名前可愛い〜。やっぱりピンク色が似合うね。」
「ほんと!?変じゃない?ねぇ、ユミルはどう思う?」
「クリスタが似合うって言ってんだから、似合ってんじゃねーの?」


(…それは喜んで良いのかな?)


その日の朝、私は104期生の中でダントツ女子力No.1のクリスタの女子部屋でメイクをしてもらっていた。なぜなら、今日は念願のエレンとの初デートだから!

エレンとはずっと幼馴染だったから、まさか付き合うことになるなんて半年前の私には想像もできなかっただろうなぁ。私は昔からエレンのことが好きだったけど、エレンは巨人を駆逐することしか頭にないと思ってた。


「ほんとに男と女って分からない。」
「うるせぇな。終わったならさっさと行けよ。食堂で待ち合わせなんだろ?」
「うん!行ってくる!クリスタとの時間を邪魔してごめんね?ユミル。」
「名前!頑張ってね!今日の名前はすっごく可愛いから、自信持って大丈夫だから!」


女神様!生まれ変わったらユミルに削がれても良いからクリスタと結婚しよ。


「2人ともほんとにありがとう!」


クリスタとユミルに手を振ってから、待ち合わせの食堂までの廊下でふと立ち止まる。窓に映った自分の姿が別人の様に感じた。
スカートを履いて、まつ毛がくるんと上向になってて、唇には薄いピンクのリップグロス。たったそれだけの変化なのに、どうしてこうも違って見えるんだろう。


(可愛いって言ってくれるかな…。)


エレンの反応が気になって、何だかソワソワしてしょうがなかった。


先に食堂に着いたのは私の方で、エレンの姿はまだない。でも、朝ご飯を食べに来てる104期生の姿は何人かあった。


「おい、名前どうしちまったんだよ!めかし込んでデートか?」
「ジャンおはよう。うん、そうなの。」


デートって響きは、やっぱり少しくすぐったくて嬉しい。


「名前、今日のお前はクリスタの次に可愛いな。」
「あ、ありがと。ライナー。」
「まぁ、名前がエレンに飽きたらいつでも俺がデートしてやるよ。」


エレンに飽きたらってジャンは言うけど、私はエレンが良いんですー。
そんな他愛もない話をジャンとライナーとしていたら、後ろから聞こえた大好きなエレンの声。


「名前!待たせたな!」
「エレン!」


その声に振り返った私を見て、エレンは一瞬ピタッと動きを止めたかと思うと、すぐに自分の服の袖で私の唇を拭いだした。


「ちょっ、エレン!?」
「…似合わねぇ。」
「え?」
「名前に化粧は似合わねぇよ。」


エレンにそう言われたのがショックで、気付いたら頬を伝った涙がポタポタと床に落ちていた。「おいエレン!何言ってんだお前!」ってジャンが言ってくれた気がした。


「…もう良い。私、部屋に戻る。」


どんなにみんなが可愛いとか似合ってるとか言ってくれても、やっぱりエレンに言われないと意味がない。それにしても、そんなにはっきり似合わないって言わなくても良いのに…。もう少し遠回しに言ってよ。


「名前!待てって!」


涙を拭いながら足早に食堂を出たけど、すぐに後を追いかけて来たエレンに腕を掴まれる。


「何?今はエレンと話したくない。」
「泣かせるつもりじゃなかった!振り返った名前がすげー可愛かったから、びっくりして。…他の奴らに見せたくなかったんだよ!」


そう言って、エレンはいきなり私を抱きしめた。


「エ、エレン!?」
「名前。本当にごめんな。」


今まで幼馴染でずっと隣にいたけど、こんなに密着するのは初めてで、恥かしくてめまいがしそうだった。でも、エレンの胸から聞こえる心臓の音は、私の心臓に負けないぐらい早くって…。


「いつもより可愛い名前が他の奴らの目に触れたのが嫌だった。…でも、俺はそんなことも許せないぐらい名前が好きだ。」


顔を上げると耳まで真っ赤なエレンがいて、
素直な気持ちを話してくれたのが嬉しかった。それに何よりエレンが今日の私を可愛いって言ってくれたのが嬉しかった。きっと今、私の顔もエレンみたいに赤くなってると思う。


「ありがとうエレン。私もエレンが大好きだよ。」


視線を合わせるのが恥ずかしくてエレンの目を見れない私は、エレンの胸に顔を埋めた。


「名前!?」
「もう少しこのままでいて。」


この先、きっと喧嘩したりすれ違ったり色々あると思うけど、何度喧嘩したって良い。すれ違っても良い。

でも、その相手はエレンじゃないと嫌なの。

 
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