アプリコットに寄り添う心


「名前、エルヴィンが団長室に来るようにだって。」
「え!?エルヴィンもう帰って来たの!?」
「うん。さっき帰って来たみたいだよ。」
「俺もさっき見た。」


帰って来るのはもう少し先になると思ってたけど、そっか。エルヴィン帰って来たんだ。


「デレデレしてんじゃねぇ。」
「し、してないよっ!」


リヴァイはそう言うけど、1週間ぶりに会えるのにデレデレしない方が無理だと思います!


「名前、きっとエルヴィン待ってるよ。早く行ってあげたら?」
「仕事部屋で変なことすんなよ。」
「うん!ちょっと行って来るね。」


ハンジとリヴァイにそう言って、私はすぐに走り出した。1週間前に大事な会議のためにストヘス区に向かった私の愛しい人。
帰って来てすぐに私を団長室に呼び出すなんて、きっと私の仕事に何か不備があったんだろうと思うけど、それでも、会いたくてしょうがない気持ちが私の足を前へ前へと進ませる。


「エルヴィン!…あ、ごめんなさい。私…ノック忘れて…。」
「名前。元気そうだね。」


早く会いたいという気持ちに急かされて、ドアをノックすることも忘れてしまったどうしようもない私。そんな私を見て、エルヴィンは柔らかく微笑んだ。
窓から射し込む夕陽でキラキラと綺麗なそのブロンドの髪も、私を見つめる優しい瞳も、何も変わってなくて安心する。


「そんな所に居ないでこっちにおいで。」


優しい声に吸い寄せられる様に、椅子に腰掛けるエルヴィンの前に立つと、彼は私の腰を抱き寄せ自身の膝の上に乗せた。


「エ、エルヴィン!?誰か来ちゃうよ!」
「仕方ないだろう。会いたかったんだ、名前。」
「で、でも…。」


会いたかったの言葉は嬉しいけど、私達の関係は他の団員のみんなには内緒なのに、こんな所を誰かに見られたらどうしよう…。


「もう少しこのままで。名前、これは団長命令だ。」


少し意地悪く笑いながら言った後、その腕に閉じ込めるように抱きしめられ、エルヴィンは私の髪に顔を埋めた。


(団長命令だなんてずるい。…でも、嬉しい。)


私もエルヴィンの背中に手をまわして、ギュッと抱きしめ返す。


「私もずっと会いたかった。エルヴィン。」


ふいに顔が見たくなって離れると、視線が交わった瞬間に重ねられた唇。


「んんっ…!」


それはいつものキスとは違って、貪るような激しいキスだった。誰かが来るかもしれないこの部屋で、こんなキスはさすがにまずいと思い肩を押してみても、エルヴィンは止めてくれない。


「…っ…あ…」


それどころか唇をこじ開けて入ってきたエルヴィンの熱い舌の熱に、浮かされそうになる。体の芯が痺れて、溶けてしまいそうな感覚。


「名前。」


長いキスの後に私の名前を呼ぶ少し切ないその声や表情で、余裕のない息遣いで、会いたくて仕方がなかったのは本当に自分だけじゃ無かったんだということを思い知る。
私を抱きしめる腕の力強さも、親指で唇をなぞるその仕草も、全てが愛しいと思った。


「エルヴィン。あのね…お帰りなさい。」


私は彼の耳元に口を寄せて、まだ言えてなかった言葉を囁いた。


「ああ。ただいま名前。」


指先で私の髪を梳きながら返してくれたその言葉が嬉しくて、私はもう1度ぎゅううっとエルヴィンを強く抱きしめた。

 
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