ウタタネ(前編)


(つ、ついにこの日がやって来た。)


私、名前はリヴァイ兵長の自室の前で立ちすくんでいた。兵長の仕事部屋である「兵士長室」ではなくて、私が今居るのは兵長の「自室」の前。もうそれだけで、さっきからドキドキと心臓の音がうるさい。


兵長と想いが通じ合い、お付き合いすることになったのは今から2週間前。それから初めて休みの日が重なったのが今日で…。
兵長は昨日、いつもと全く変わらない感じでたった一言だけ「明日、俺の部屋に来い。」って言ったけど、これって…デートってやつですよね?


(兵長と仕事…じゃなくてデート…。)


そう意識すればするほど緊張してしまい、なかなか兵長の部屋をノックできない。さらに、私は昨日のペトラとの会話を思い出していた。


誰よりも私と兵長のことを喜んでくれた私の大切な同期。昨日の夜、そんなペトラに呼び出され、私はペトラの部屋を訪れていた。


「名前おめでとうっ!兵長との初デートを記念して、これは私からのプレゼントよ!」
「何これっ!?い、い、色っぽぉーいっ!」


ペトラがプレゼントと言って私に差し出したのは、今まで身に付けたことが無いような白のレースの下着だった。こんな色っぽくて可愛い下着見たことないっ!


「名前に似合いそうなの買ってきたの。ちゃんとこれつけて行きなさいよ。相手はあの兵長なんだから。失礼のないようにね。」
「ありがとうペトラ!…でも私、明日いきなり兵長とそういう事になるのかな…。」
「何言ってんのよ。部屋に行くってことはそういう事でしょ?全てを兵長に任せて大人の階段上ってきなさい。」


ペトラの言い付けをちゃんと守ったけど…でも…何か私いやらしいよね!?慣れないレースの下着で何だかソワソワするし。どうしよう…今からでも部屋に戻っていつもの下着に替えた方が良いかな…。
それに…大人の階段…。兵長とそういう事するの?今日?…どうしよう。心の準備がまだできてないよ!それに兵長って潔癖性だけどそういう事できるのかな。


そんな事ばかりがぐるぐると頭の中を巡り、悶々と考え込んでいると突然おでこの辺りに衝撃が走った。


「いたぁっ!!」
「何やってんだ名前。来てたんなら声かけろ。」
「は、はい!」


それはリヴァイ兵長がいきなり開けたドアにぶつかった衝撃だった。


「何突っ立ってんだ。さっさと入れ。」
「あ、あの兵長!…私、ちょっと部屋に忘れ物をしてしまって…!」
「あ?んなの良いからさっさと来い。」


私の腕をグイグイ引っ張って部屋の中に引き入れる兵長。もう今から部屋に戻るのには絶望的過ぎる状況で、私に為す術なんて無かった。


(こ、心の準備が出来てないよーっ!)


 
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