パン泥棒!


エルヴィン団長の部屋から出てきた後のリヴァイ兵長の機嫌はすこぶる悪かった。
眉間の皺は深く、凶悪な目つきでこっちを睨みつけてくる。
どうしたら良いのか途方に暮れた私は、お茶を淹れることを提案することにした。

「あの…リヴァイ兵長、お茶でも淹れましょうか…?」
「いらん。」


えっ?いらないの?
毎日淹れろって言ったのは兵長のくせに…。


「…そうなんですか?今日は淹れなくても良いんですか?」
「いらねぇって言ってんだろうが。」

そう吐き捨てる様に言うと、兵長はそのまま私を残して1人で歩き出した。


(何なのあれ!?何があったか知らないけど八つ当たりしないでよ兵長のバカ!!)

だんだんと小さくなる兵長の背中を見つめながら、私は心の中でそう叫んだ。
一体私が何をしたっていうんだ。エルヴィン団長にお茶を淹れてただけなのに、あんな態度はあんまりだ。


「もう良い!ヤケ食いしてやる!」


そう決意した私は遅めの昼食を取るために足早に食堂へ向かった。






食堂が1番混み合う時間はとうに過ぎていたのにも関わらず、思っていたよりも人がたくさん居たので驚いた。
しかもあんまり見たことのない顔ぶればっかり。
最近入った104期の子達かな…?


今1番会いたくない人、リヴァイ兵長の姿は見当たらなかった。


(セーフ!今兵長の顔見たら食欲無くなっちゃう!これで思いっきり食べられる!)


とは言っても食糧難だから普段とそんなに変わらないんだけど…。
せめてもと思い、食堂のおばさんに頼んでスープを器から零れないギリギリまで入れてもらった。
おばさん達の私を見る目が少し痛い…。


「この分のツケはリヴァイ兵士長にお願いします!」


そう言うと、おばさん達はますます訳が分からないといった顔をした。
だって兵長が悪いんだもん!
さっきのことを思い出し、またイライラしてきた私は足早に席に着いた。


「いっただきまー…」
「パァン!!」
「…すって私のパァーンっ!!」

バッと隣を向くと見たことのない女の子が、さっきまで私のトレイに乗っていたパンを物凄い勢いで頬張っていた。
あまりの勢いに私は抗議することもできずに、ただただ女の子がパンを貪る姿を見つめていた。


「あ、あのそれ私のパン…。」
「はっ!すみません!すみません!」
「バカ!何やってんだよサシャ!」


女の子の前に座っていた坊主頭の男の子が少し声を荒げて言う。
どうやらこの女の子はサシャという名前らしい。



それにしてもどうしてこの子はこんな勢いでパンを食べたんだろう。
まるでしばらく何も食べていないかの様なガッつき方だった。
まさか新兵いじめ!?自由を追い求める調査兵団に限ってそんなことあるはずないよね!?
いや絶対にないと信じたい!


「私はハンジ班の名前っていうんだけど、サシャ…あなたもしかしてご飯もらえてなかったの…?」

私は勇気を出して恐る恐るサシャに訪ねてみた。
(…お願い…大好きな調査兵団にいじめなんて存在しないで…。)
「いえしっかり食べてます!」
「食べてるんかいっ!」


サシャの予想外の返答に思わず叫んでしまった。
じゃあ何で私のパン食べたの!?
パンが無かったらヤケ食いどころか、いつもより少なめのご飯になっちゃうんだけど!?


「えっと、名前さんこいつ食べ物には目がなくて…。すみません、俺からも謝ります。」
「君は…?」
「俺はコニー・スプリンガーです!おい!サシャもちゃんと謝れよ!!」
「本当にすみませんでしたぁ!!」


目に涙を溜めながら謝るサシャを見ていると何だか怒る気力も失せてしまった。


「もう、今回だけだからね!」
「ありがとうございます!神ぃぃぃぃぃぃぃい!!」


パン1つにやけに大げさだなぁ。
まぁ、兵団内にいじめなんてなくて良かった。



ほっと胸を撫で下ろしていると、今度は後ろから誰かが私の髪に撫でるように触れた。


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