その訳は


「あの…兵長。」
「何だ。」
「私、そろそろ書類を書き写し始めたいので…離してもらえたらなぁーとか思ったり…。」

私が泣き止んでからも、兵長はなかなかその腕を解いてくれなかった。さっきから心臓の音がバクバクうるさいし、顔もすっごく熱い!兵長!これは重罪を犯した私への罰なのでしょうか!?

「書類に茶ぶっかけた奴が大層な口をきくもんだな。」
「うぅ。それは本当にすみません。でも、ちゃんと明日の朝までに全部仕上げますから!…それに、この状況は…すごく恥ずかしいです。」
「…どうして恥ずかしいんだ名前?」

兵長は私の顔を覗き込む様にして聞いてきた。どうしてって!そりゃあ、あなたが抱きしめてるからでしょうよ!ハンジ分隊長とか他の人から抱きしめられても全然恥ずかしくないけど、兵長はダメです!心臓がもたない。…ってあれ?どうして兵長だけはダメなんだろう…。

「…どうしてだろ?」
「自分のことぐらい把握しとけ!この愚図!」
「ああっ!愚図って言われたぁ。」

それはそれは、あっさりと愚図と吐き捨てられた。30分ぐらい前までは、もう兵長に愚図って言われることは無いと思ってたのに。これじゃあ名誉挽回どころか、ますます無能だと思われてるだろうなぁ。

「おい、さっさと終わらすぞ。早く座れ。」

私が自分の無能さ加減にうな垂れてる間に、兵長は自分の机を素早く拭いて、もう席に座っていた。

(…え?兵長?)

「あの、兵長。書類は私がやっておきますからゆっくり休んで下さい。朝から会議で疲れてますよね?…それにこれは私がしでかした事ですし…。」
「ごちゃごちゃうるせぇな。お前に任せてたら100年かかっても終わらねぇだろ。」
「終わりますー!そこまで無能じゃありませんー!」


ムキになる私を見て兵長は「そうかよ。」と言って少し意地悪く笑う。その表情にまたドキっと心臓が跳ねる。

(本当にどうしちゃったんだろ私…。やっぱりちょっと変だ。)


でも最近…私は忙しい自分の心について少し思うところがある。兵長と一緒に居る時にだけ起こるこの胸のドキドキや、最初は苦痛だった毎日のお茶汲みが楽しみで待ち遠しかったり、兵長がいない日は少し寂しいと思ったり…。

もしかしたら私、兵長のこと…好きなのかもしれない。

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