兵長の奥さん


「104期のみんなお揃いかなー!?今日は非常に残念なんだけど、巨人の生態についての話ではなくて長距離索敵陣形についての話なんだ。」


あの眼鏡に陽気な振る舞い…。ドアから入って来た人物は、リヴァイさんの仲間で私にこのジャケットをくれたハンジさんだった。


調査兵団で私の顔を知っているのは、リヴァイさん以外はハンジさんとエルヴィンさんだけだから、この広い建物の中では顔を合わさずに切り抜けられると思ってたのに!
まさか潜入してすぐにハンジさんの登場とはツイてない。


「えっとそこの君、長距離索敵陣形とはどんなものだと思う!?」
「えっ、私…?」


しかもいきなり当てられた!本当にツイてなさすぎる…。
ハンジさんにばれない様にせめてもと思い、顔を少し伏せながら考える。
長距離索敵陣形…長い距離の…うーん、索敵って何ですか!?助けてリヴァイさん!!


「ってあれ!?名前ちゃんっ!?」


(ば、ばれたぁー!)


私に気付いたハンジさんは真っ直ぐにこっちにやって来た。


「名前ちゃん久しぶり!どうしたのこんな所で?」
「あ…はは。お久しぶりです。実はちょっと野暮用で…。」
「リヴァイに用?もうすぐしたらリヴァイも時間空くみたいだったよ。」
「あっ、リヴァイさんには内緒で来てて…。」
「そうなの?じゃあこの時間終わったら一緒にお茶でもどう!?ねぇ良いでしょ!?」
「あ、はい。ありがとうございます。」


ハンジさんの勢いに負けて断ることが出来なかった私は、一緒にお茶を飲む約束をしてしまった。
一体ここに何をしに来たんだ自分!


「ハンジ分隊長!この名前さんって一体誰なんですか?調査兵団の人じゃないんですか?」
「ああ。104期のみんなは知らないんだったね。教えてあげないといけないね。名前ちゃんはリヴァイの奥さんだよ。」


一瞬、シーンと静まり返る部屋の中。

少し間を置いたあと、


「「ええーっ!?」」


と大音量の声が部屋中に響き渡った。


ざわざわと一瞬にして騒がしくなったあと、「104期」とハンジさんが呼んでいた人達にあっという間に取り囲まれた。


「本当にリヴァイ兵長の奥さんなんですか?」
「兵長って家ではどんな感じなんですか!?」
「プロポーズの言葉は!?」


次々に飛んでくる質問の嵐。
ハンジさん助けてー!ってハンジさん目の前に居たー!


「私もリヴァイのプロポーズの言葉聞きたいよ!名前ちゃん!」
「えっ?…えーと、その……俺はお前が……ってそんなの恥ずかしくて言えませんよハンジさん!」
「照れてる名前ちゃんも可愛いっ!じゃあまた今度ゆっくり教えてね。さっ、みんな席に着いて!何か質問がある人はリヴァイに直接するように。」
「「ええーっ!?」」
「兵長に直接は無理だな。蹴り飛ばされて終わりだ。」
「うん。ライナー、僕もそう思うよ。」
「まさかあのチビにこんな可愛い奥さんが居たなんて…。許せない!」
「おい!ミカサやめろっ!」
「やっぱり人間は自分に無いものを求めるんだよ。あの奥さんのふんわりした雰囲気は兵長には無いからね。」
「おいアルミン!何お前まで考察始めてんだよ!」


何かざわざわと色々聞こえてくるけど、とりあえず助かった。
後でちゃんとハンジさんに事情を話そう。


「じゃあみんな静かにして!長距離索敵陣形の説明始めるよー!名前ちゃんは申し訳ないけど、この説明が終わるまでそこで聞いててね。」
「はい!分かりました!」


こうして私はこの時間、長距離索敵陣形という何やら難しそうな言葉の内容について学んだのだった。



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