新しい1年の始まりです!
(今年こそリヴァイさんの残業が減って、一緒に家で過ごせる時間が増えますように。)
お賽銭箱に大奮発の500円玉を投入した私は、手を叩き強く願う。
1月1日、家の近くの神社に初詣に来ていた私は、リヴァイさんの勤め先に直接訴えた方が良さそうな、そんな事を神様にお願いしていた。
隣を見ると「神なんて信じねぇ」と朝から難しい顔をしていたリヴァイさんも、ちゃんと両手を合わせて目を閉じてる。神社に来てやっぱり神様を信じる気になったのかな…?
そう思ってお参りを終えたあとに聞いてみると、
「はっ、んなわけねぇだろ。」
とそれはそれは見事に一蹴されました。今年初の一蹴です。
参拝客で溢れる神社の参道を歩きながらそんな事を平然と言えるリヴァイさんは、なかなかの心臓の持ち主だと思う。
「じゃあ、手を合わせてる間何を考えていたんですか?」
「名前のマヌケが治るように願ってやったんだ。俺は信じてねぇが、神を信じるお前絡みのことなら聞き入れられるかもしれねぇだろ。」
「…うーん。それは喜べばいいのか、悲しめばいいのか…。」
「これでマヌケが治ったら儲けもんだろ。素直に喜んどけ。」
何だか納得のいかない私はもう1度うーんと首を捻る。リヴァイさんは喜べって言うけど、この複雑な気持ちはなんだろう…?ここで喜んだら何かに負けるようなそんな気が…。
「あっ!」
そう考え込んでいた時、新年の始まりにぴったりなある物が視界に飛び込んで来た私は思わず声を上げる。その声に、私の見つめる先に視線を移したリヴァイさんは少し怪訝そうな声で言った。
「俺はやらねぇからな。」
「ええー!?一緒にやりましょうよ!おみくじ!」
眉間にシワを寄せ「嫌だ。」と無言の抵抗をするリヴァイさんの腕を引っ張って、巫女さんにおみくじ2回とお願いして素早くお金を払う。お前はどうしてこんな時だけ動きが早いんだ、というリヴァイさんの言葉はもちろん聞こえないフリをして!
素早くお金を払う作戦が功を成したのか、すっごく不機嫌な顔ではあるけどリヴァイさんは渋々おみくじを引いてくれた。かなりやる気が無さそうに適当に引いた感じだったけど…。
そんな顔で引いたら凶を引き寄せちゃいますよと言う私の本気の助言は、うるせぇと両手で頬を摘ままれた挙句「ほぅ。今年の餅はよく伸びるな。」と、新年早々乙女心がズタボロになるという悲劇を招いた。
「い、いひゃいれすーっ!」
「いいからお前もさっさと引け。」
やっと解放された頬を片手でさすりながら、もう片方の手を箱に入れて真剣におみくじを選ぶ。今年の自分の運命を示す大事なおみくじだから、一瞬の油断も許されない。
(よし!これだ!)
悩みに悩んでから、直感的に運命を感じた1枚を私は自分の手に取った。
隣に立つリヴァイさんは、私の優柔不断ぶりに少し呆れ顔。
「お待たせしました!リヴァイさん、せーので見ましょう!いきますよ…せーのっ…!」
掛け声と同時に、私とリヴァイさんはそれぞれのおみくじを開いて中を確認する。
バッと開くと飛び込んできたその文字に、私は膝から崩れそうになった。
『凶』
見間違いだと思いたくて、目を凝らして見てみたり意味もなく太陽の光に透かして見てみたりしたけど、結果は間違いなく凶だった。
「…そんな…。リヴァイさん…私…今年死ぬのかもしれません…。」
「大げさなんだよお前は。死ぬなんてどこにも書いてねぇだろ。」
私の様子から全てを悟ったのか、リヴァイさんは私の手元を覗き込みながら言った。
「…でも…っ…凶なんですよ…!?」
まさかの結果に取り乱す私とは正反対に、いつも通りの落ち着きのリヴァイさん。そう言えばリヴァイさんは何だったんだろうと、視線をリヴァイさんのおみくじに移すと目に入ったのは『大吉』の2文字…。
(う、うらやましい…。)
適当に引いたリヴァイさんが大吉で、気合い充分で引いた私が凶。おみくじには気合いの程は関係ないんだという至極当たり前のことを私は改めて思い知った。
今年は大波乱の1年になるのかも…。
そんな予感にトホホと肩を落とした私の目の前に、リヴァイさんはずいっと自分のおみくじを差し出した。
「俺のと替えてやる。」
「…でも…それだとリヴァイさんに災いが…っ!」
「俺は信じてねぇから何でも良い。だからそんな顔すんな。」
そう言ってリヴァイさんは私の手から凶のおみくじを取り上げ、代わりに自分の大吉のおみくじを私の手に握らせた。
でも、これだとリヴァイさんにとって散々な1年になってしまうと焦った私は、何か良い方法は無いかと頭を悩ませる。
「…そうだ!リヴァイさん!すっごく良い案を思い付きました!」
しばらく考えた後に、奇跡的にもこの状況を打開するある作戦を思い付いた私は、リヴァイさんから自分の凶のおみくじを受け取り、多くの人がおみくじを結びつけている木の前まで移動することにした。
「何すんだ、名前。」
「えっとですね…これをこうして…。」
言いながら、背伸びをした私は自分とリヴァイさんの2枚のおみくじを重ねて木に結びつける。こうすることで、プラスマイナスゼロ的な効果が得られると思ったから…!
そう願いを込めてしっかりと木に結びつけた。
「意味あんのかそれ。」
「何事も気の持ち様ですよ!リヴァイさん!」
「まぁ何でも良いが、お前の顔を見てたら俺は餅が食いたくなった。寒ぃしさっさと帰るぞ。」
「え!?私の顔…餅って…!?」
そんな意地悪めいた事を言いながらリヴァイさんは歩き出した。
すぐには後を追わず、その背中を見つめながら私は思う。
信じてないからとはいえ、何の躊躇いもなくおみくじを替えてやるって言ってくれたリヴァイさんかっこ良かった。
「名前、何してる?さっさと来い。」
「リヴァイさん!今年もだーい好きですっ…!」
なかなか追いついて来ない私を不思議に思ったのか、立ち止まり振り返ったリヴァイさんに私は大きな声でそう言った。
いきなりこんな場所でそんなことを言われたリヴァイさんは、少し驚いた顔をしながらも私の目の前まで戻って来ると「場所を考えろ。」と言いながら、私の唇にキスを落とした。
そんな矛盾だらけの今年初めてのキスが可笑しくて、人目を気にするよりも先に笑いが込み上げて来る。
「どっちがですか。」
「フン、名前が悪ぃ。」
不貞腐れる様に言うその姿が愛おしくて、私は自分からリヴァイさんの腕に自分の腕を絡め人の行き交う参道を歩き出した。