あなたに贈るハッピーバースデーG


外に出ると朝からずっと降り続いていた雪はもう止んでいた。
それでも昼に家を出た時よりも空気は何倍も冷たくって、本部を出る時にリヴァイさんが着せてくれた緑のマントがなかったら、家に辿り着くまでに凍え死んでいたかもしれないと思うぐらいの寒さだった。


「気を付けろよ。」
「…はい。」


私はリヴァイさんの腕に掴まり、来た時のように雪を踏みしめながらゆっくり歩く。歩調を合わせてくれているのかいつもは早足のリヴァイさんなのに、今日はゆっくり歩いてくれていて。

(早く家に帰りたいって言ってたのに。)

リヴァイさんのこういう優しさが私は大好き。
クールだけど、冷たいんじゃなくて本当は温かくて優しい人。そんな人柄に私はもうずっと惹かれ続けている。
だからやっぱり今日は私にとって1年で1番特別な日。

(…プレゼントのことちゃんと言わなくちゃ…。)

一体いつきり出そうかとぐるぐると悩んでいたら、意識がそのことばかりに集中してしまい、雪道に足元を取られ身体が大きくバランスを崩した。


「…きゃっ…!」


そんな私をリヴァイさんが両手で抱き留める。
リヴァイさんが受け止めてくれたから、冷たい雪に身体を打ちつけることはなくて、代わりにあたたかな体温が私を包み込んだ。


「あの荷物は置いてきて正解だったな。」
「…もしかしてリヴァイさん、私が転ぶと思って…?」
「自分の妻1人受け止められなくてどうする。情けねぇ。」


リヴァイさんがそんなことを真剣な顔で言うから、胸の奥の方がキュンとして私はリヴァイさんに思いきり抱き付いた。


「どうした、名前?」
「…リヴァイさん…ごめんなさい。私…リヴァイさんへのお誕生日のプレゼントを無くしてしまって…。ハンジさんはああ言ってましたけど、本当はもう贈れる物は無くて…。」


贈れる物が無いという事実を実際に言葉にしてみると、悲しい気持ちで胸がいっぱいになって、遂には涙まで溢れてきた。
リヴァイさんは私を抱き締めたまま、「そうか。」と優しい声で言う。

「…ごめんなさい…っ。せっかくのお誕生日なのにっ…。」

私はいつもリヴァイさんに楽しい時間や嬉しい気持ちをいっぱい貰ってるのに、何のお返しも出来ていない。だから、せめて誕生日ぐらいは私から何か贈りたいと思っていた。


「…っ…ごめんなさい…っ」
「名前」


リヴァイさんは腕の中で泣き続ける私に上を向かせると、ジャケットのポケットから取り出したハンカチで私の涙をゴシゴシと拭った。その仕草にふいに思い出したのは、初めてリヴァイさんに会ったあの日のこと…。
あの時もリヴァイさんは自分のハンカチで…。


「…リヴァイさん…?」
「お前は俺に何も贈れないと言ったが、俺はもう貰ってる。」
「…何を…ですか…?」


リヴァイさんは真っ直ぐに私を見つめてそう言うけど…。
一体何の話だろう?今日の宴のことかな。それぐらいしか思い付かない。


「…お前が言うところの、ハッピーな気持ちってやつをだ。」


そう言ってリヴァイさんは私の身体にまわしている腕の力を強くした。
まさかリヴァイさんがそんなことを言うとは思ってなかったから、驚きと嬉しさでまた涙腺が緩んでしまう。


「…リヴァイさん…。私、リヴァイさんに出逢えて良かった。リヴァイさんが生まれてきてくれて本当に良かった。」
「…名前。」
「…それに、リヴァイさんに好きになってもらえて…妻になれて本当に良かった…っ!」


そんなありきたりの言葉で私は言う。
でも、これが今の私の本当の気持ち。

リヴァイさんと出逢って無かったら、別の人を好きになってたら私の人生は一体どんなものになってたんだろう。
…きっとそれなりに幸せだったかもしれない。大切な人が壁外調査に向かう背中を見送る辛さを知ることも無かったかもしれない。
でも、私はやっぱりリヴァイさんの隣が良い。…リヴァイさんと過ごす今が何よりも幸せだから。


「なら来年の俺の誕生日も、お前が1番傍で祝え。今年のプレゼントはその約束で良い。」
「えーっ!?それはプレゼントに入りませんよ!せっかくリヴァイさんのお誕生日なんだからもっと特別な事したいです…。」
「それならハンジが言っていた様に、名前自身をプレゼントとして貰うしかねぇな。」
「え!?」


突然のびっくりな発言に私は固まってしまう。やっぱりあの話聞こえてたんだ…。
それって卑猥な意味でのプレゼントって事ですよね…?!今日から毎日肩たたきするとかじゃなくて…!?
動揺する私の顔を覗き込むリヴァイさんの表情はどこか楽し気で…。


「どうした?何か特別な事をしてくれるんだろ?…楽しみだな、名前。」
「あの…リヴァイさん!?」
「それに…言ってなかったが、お前のその格好なかなか良いな。」


今にも唇と唇が触れそうな距離でリヴァイさんがそんな事を言うから、ドキドキして私はますますその場から動けない。


「…悪くない…じゃなくて…?」
「あぁ、良い。」


そう言ってリヴァイさんが私の頬に手を当てるから、反射的に目を瞑ると唇に柔らかい感触がした。寒さの所為かいつもよりリヴァイさんの唇の熱を感じる。


「…そうと決まればさっさと帰るぞ。」
「な、何が決まったんですか!?」


前を向いて歩き出したリヴァイさんの言葉からは嫌な予感しかしない。まさかハンジさんが酔っ払いながら言っていたことが現実になるんじゃ…。


「今の流れで察しろ。」
「リ、リヴァイさん!私、肩たたきならっ…!」
「凝ってねぇよ。」
「ええーっ!?そんなぁー。」



12月25日
私の大好きな人の誕生日。
1年の中で最も特別で、あたたかい気持ちになる日。

途中でハプニングもあったけど、内緒で準備をしてきた今日の宴は大成功だったと思う。
ケーキは絶対に来年リベンジしよう。

「生まれてきてくれてありがとう。」なんてありきたりで使い古された言葉だけど、今日が終わるまで何回もリヴァイさんに伝えよう。普段は恥ずかしくて、そんな言葉はなかなか口に出来ないから。


そして来年のリヴァイさんの誕生日も、こうして1番近くでお祝いできますように。


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