あなたに贈るハッピーバースデーF


真っ青な顔をしたジャンから、リヴァイさんに贈るバースデーケーキについて衝撃的過ぎる報告を受けた私は、こっそりと食堂を抜け出し全力で走っていた。
宿舎に続く廊下をジャンとエレンと3人で…。


「おい、ジャン!マジなのかよ!?兵長のケーキをサシャが食っちまったって!」
「あぁ。跡形もなくサシャが食っちまった!」


ジャンの話によると、乾杯の後、隣に座っていたサシャの姿が見えなくなったのを不審に思いまさかと思って探してみると、誰も居ない廊下の隅でガツガツと私が作ったケーキを食べるサシャを見つけたらしい。
ジャンに見つかってしまったサシャはもの凄いスピードでその場から逃げて、今は自室に引き籠って自分のしてしまったことに後悔の涙を流しているらしく…。


「サシャ…。名前だけど、ドア開けても良い?」
「…ううっ…名前さん…っ…!」
「おいサシャ!お前何やってんだよ!」
「…ひぃ…っ…すみません…っ!」
「ジャン、エレン。ちょっとサシャと2人で話をしても良い?…せっかく一緒に来てくれたのにごめんね…。」


私が走ってここまで来たのは、ケーキを食べてしまったサシャを咎める為じゃない。ただひとつだけ、どうしてもサシャに聞いておきたことがあったから。
私のお願いを聞き入れてくれたジャンとエレンは、何かを言いたそうにしながらも先に食堂に戻ってくれた。

それからサシャの部屋のベッドに2人で並んで腰をかけ、ボロボロと大粒の涙を流すサシャの背中を私は何度もさすった。


「名前さんっ…!本当に…すみませんでした…っ!兵長のケーキ…っ!」
「サシャ、私怒ってないよ?…だからもう泣かないで。」


零れ落ちるサシャの涙を、スカートのポケットから取り出したハンカチで拭いながら私は言った。恰好をつけて怒ってないなんて言ってるわけじゃない。反省するサシャの姿を見てると怒りなんて湧いてこなかった。それに…こんなに自分のしてしまった事を深く反省している子を怒るなんて、それこそ兵士長の妻失格だと思う。


「あのね、サシャに聞いておきたいことがあって…。…あのケーキ…どうだった…?」
「…どうって…?味のことですか?」
「うん…初めて作ったからすごく不安で。だから感想を聞かせてもらいたくて…。」


クリームは少し緩かった気がするし、それに丸くて大きいケーキをプレゼントしたかったから、ケーキの生地の味見まではちゃんとできていない。見た目はちゃんと焼けていても、中は生焼けなんて可能性もあったし…。これはもう実際に食べてみるまで分からないから…それがすごく不安だった。


「すっごく美味しかったですっ!だから途中で止められなくて。私、あんなに美味しいお菓子初めて食べました!…もう少し甘いほうが私の好みではありますけど…。」
「本当!?…良かったぁ。」


サシャがもう少し甘い方が良いって言うってことは、リヴァイさんにはきっとそれぐらいの甘さで丁度良いんだと思う。それに、途中で止められないぐらい美味しいって言って貰えるなんて凄く嬉しい。


「これで来年は自信を持ってリヴァイさんにプレゼントできそう。ありがとう、サシャ。」
「…名前さん…。」
「じゃあ、一緒に食堂に戻ろう?きっとみんなも心配してるから。」


そうしてサシャと一緒に食堂に戻った私は、この事態を知っているジャンとエレンにも一部始終を説明し、ケーキ騒動は幕を閉じた。


戻って来た頃には宴はすっかりお開きムードで、私の予想通り次々とリヴァイさんにプレゼントを渡す人達の姿が目に入って、もう何も贈ることができない私は少し羨ましかった。やっぱりもう1つ何かプレゼントを用意したら良かったと、今になって激しく後悔してしまう。


「名前ちゃん!聞いたよ!ケーキのこと!残念だったね。」
「ハンジさん…。」
「大丈夫だって!それなら名前ちゃん自身をプレゼントにしちゃえば良いんだよ!」


一体どれ程お酒を飲んだのか、見たこともないぐらいに赤い顔をしたハンジさんはよしよしと私の肩を抱きながら言った。
ケーキの事を聞いて慰めてくれているんだろうけど…私自身をプレゼントって…?

「…あのハンジさん。それって一体どういうことですか…?」

お酒のせいか興奮気味にハンジさんはそんなアドバイスをくれたけど、それは具体的に私は何をしたら良いのでしょう…?私自身をプレゼントって…リヴァイさんに喜んでもらえる気が全くしません…!


「だからね、人類最強とか言われちゃってるけどリヴァイも所詮は1人の男なんだから。名前ちゃんがこう普段はしないようなえっちなサービスでもしたらきっと喜ぶって!そうだ!その格好でご奉仕とかしたら良いじゃない!?うん!それが良いよ!!」
「分隊長!露骨過ぎです!それに卑猥過ぎます!」
「…えっちな…サービス…?」


いや無理無理無理!ぜーったいにそれは無理!モブリットさんが言うように卑猥過ぎますっ!
何をどうしたら良いのか分からないし、それに…そんなの恥ずかしすぎて無理ー!
そんな柄じゃないことを背伸びしてやっても、絶対に失敗しちゃう。リヴァイさんにも引かれちゃう!


「いや、ハンジさんそれは…」
「大丈夫だって!何なら私が今教えてあげてもぎゃーっ!!」


目の前で突然叫び声を上げながら大きく吹っ飛んだハンジさん!
びっくりして後ろを振り返ると、そこには怖い顔をしたリヴァイさんが立っていて。

「おい、名前。帰るぞ。」

一体いつから居たんだろう。もしかして、今のとんでもない会話聞かれちゃったかな…。
それより帰ると言いながらもさっきみなさんから受け取っていたプレゼントを、リヴァイさんが何一つ手に持っていないことが私は気になった。


「あれ?リヴァイさん、皆さんから頂いたプレゼントは…?」
「あんなに持って帰れねぇだろ。明日から少しずつ持って帰ることにした。」


なるほど、それで手ぶらなんだ。
でも、今日なら私も一緒に持って帰ることができるのに…。あんなに大量のプレゼントを1人で持って帰るのは、数日に分けても大変だと思う。そう思い口を開きかけたその時、


「きっと名前ちゃんからのプレゼントを貰う為に両手を空けてるんだよ!」
「ハ、ハンジさん!?」
「良かったねリヴァイ!家に帰ったら名前ちゃんからのとっておきのプレゼントがあるらしいよ!」
「えっ!?ちょっ…!ハンジさん!」


リヴァイさんの蹴りからいつの間にか復活したハンジさんは、そんなデタラメなことをリヴァイさんに言う。もうプレゼントは無いのにーっ!そんなこと言わないでーっ!


「ほぅ。それは楽しみだな、名前。」


リヴァイさんのその言葉に、私はどうしても返す言葉を見つけることが出来なかった。楽しみだと言ってくれているのに、まさかプレゼントが無いなんて言えない。でも、変に嘘を吐いたりはしたくなかった。


「さっさと帰るぞ。」


下を向いて必死に返す言葉を探す私の手を少し強引に取って、リヴァイさんはズカズカと歩き出した。ハンジさんは頑張れー!って声援を送ってくれているけど、それはえっちなサービスをじゃなくって、プレゼントが無いって告白することをですよね!?              

帰ると言ってきかないリヴァイさんに引きずられるようにしながら、ハンジさんや今日一緒に準備をした104期のみんなに大きな声でお礼を言いながら私は食堂を後にした。


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