あなたに贈るハッピーバースデーD


今日は俺の尊敬するリヴァイ兵長の誕生日だ。兵長には、掃除の仕方とかで細かいことをネチネチと言われることも多いけど、普段からすげー世話になってるから少しでも兵長が喜んでくれるように俺も全力で頑張りたい。


「いやそこは兵長で良いんじゃねーか?」
「でも、エレン。それだといつも兵長のことをリヴァイさんって呼んでる名前さんにとっては違和感があるんじゃないかな?」


宴の準備を終えた俺達と名前さんは、食堂のテーブルを囲み、みんなで声を合わせて言う予定の兵長への第一声について話し合っていた。「兵長!お誕生日おめでとうございます!」にするか、「リヴァイさん!お誕生日おめでとうございます!」にするのか。アルミンは名前さんもいるから「リヴァイさん」を推していて、ミカサはどっちでも俺の意見に賛成らしく、他の奴らはどっちでも良いと言わんばかりに完成した料理にばかり気を取られてやがる。


「名前さんはどう思いますか?」
「うーん。私はみんなに合わせるよ。」
「じゃあ兵長で決まりだ!!」
「エレンはどうしてそんなに兵長の方を推すの?」


不思議な顔でアルミンは俺に聞いてくる。何だ、アルミンは知らねーのか。だったら教えてやらねーとな。


「兵長はな、名前さんに兵長って呼ばれるのが好きなんだ。」
「どうしてそう思うの?」
「聞いたんだよ!この前、兵長がエルヴィン団長に話してるのを。名前さんに兵長って呼ばれると背徳感があってすげーそそるって!そそるの意味は俺よく分かんねーけど、兵長はもが…っ!」


まだ説明の途中なのに、隣に座るミカサがいきなり俺の口を手で塞いだせいで最後まで説明できなかった。くっそ!邪魔すんじゃねーよ!兵長の為なんだよっ!


「おいっ…!ミカサ…っ!」
「エレン。あなたはもっと空気をよんで。それはこんな大勢の前で話すことじゃない。さすがの私もエレンを庇いきれない。」
「名前さん!?大丈夫ですかっ!?」


周りをよく見ると名前さんは赤い顔で茫然としてるし、アルミンとミカサ、それにさっきまで料理に気を取られていた他の奴らまですっげー白い目で俺を見ている。
何だよ!?俺はそんな変なことを言ったのか!?教えてくれよアルミン!

「まぁまぁ、じゃあ兵長で決定にしよう!もうあんまり時間も無いしね。」

結局この話し合いはアルミンが話をまとめて幕を閉じた。俺は自分の何がダメだったのか全然分かんねーけど、兵長になったなら良かった。これで兵長も喜ぶはずだ…!


みんなでの第一声も決まり、他の先輩方も食堂に集まり出し、あとはさっき兵長を呼びに行ったハンジさんが上手く兵長を説得して食堂に連れて来るだけだった。それがなかなか難しい気がするけど、きっとハンジさんならやってくれるはずだ。


「なぁアルミン。そう言えば、2人が食堂の近くまで来た時の合図とかあるのか?」
「ハンジさんは信煙弾撃ちたいとか言ってたけど…。」
「はぁ!?室内で煙弾なんて撃ったらその瞬間に兵長にぶっとばされるじゃねーか!」
「うん。だからモブリットさんが必死に説得してたよ。」


アルミンのその言葉に俺は心の底から安心した。さすがはモブリットさんだ。やっぱりハンジさんの副官はあの人しかいない。


「ねぇねぇ!信煙弾って壁外調査の時とかに使う32色あるっていうあれだよね!?」


こんな事を声を弾ませながら言う人は、ここには1人しか居ない。
後ろを振り返ると、俺の予想通りそこに居たのは名前さんで。しかも何故か瞳を輝かせている。32色って…でも、さすがに俺の聞き間違いかもしれない…。そう思った俺は、名前さんに問いかけてみることにした。


「名前さん今、32色って言いました?」
「うん!リヴァイさんに教えてもらったの!」


…やっぱり聞き間違いじゃなかったのか…。
名前さんの話によると、以前、信煙弾が何か分からず俺達104期の会話に入れなかったことが寂しかった名前さんは、その日家に帰ってからこっそり兵長に聞いたらしい。兵長はその時名前さんに、「良かったな。これでお前もあいつらの話に入れるな。」って言ったらしいけど…。


(それ…兵長にからかわれたんですよ!名前さん!!)


そんなにあったら持ち運びが重いし、何より巨人に遭遇した時に32色から煙弾を選んだりしてたらその間に巨人に食べられてしまう。きっと兵長は色鉛筆か何かと聞き間違えたんでしょう。と、名前さんを傷つけない様にやんわりとアルミンと一緒に説明をする俺だった。
兵長はなかなか名前さんで楽しんでるなと思う。好きな子ほど苛めたくなるっていう性分なのか?


「えー!?そうなの!?…きっと私、面白がられてリヴァイさんにしてやられたんだと思う。初めてその話をしたのがエレンとアルミンで本当に良かったぁ。」


と言って少し恥ずかしそうにしながらも、名前さんは安心したように笑っていた。さすがは兵長の奥さんだ…兵長の性格をよく分かってる。夫婦ってこれぐらい性格が真逆の方が上手くいくもんなのか…?俺にはまだよく分かんねぇけど。

その時だった、少し遠くからハンジさんの大きな声と2人分の足音が聞こえてきたのは。


「すぐに済む用事だから、そんなに怒らないでよリヴァイ!終わったらすぐに名前ちゃんの所に帰れるからねー!」
「当たり前だろうが。何か知らねぇが、その用事とやらが終わったら俺はすぐに帰るからな。」
「はいはい分かってるよー。」


その声に、その場に居た全員が息を呑み顔を見合わせる。名前さんも先輩方もみんな立ち上がって食堂の入り口の方に向き直った。

徐々に大きくなるハンジさんと兵長の足音。近づいてくる2人の話し声。

いよいよこの時が来た!!



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