あなたに贈るハッピーバースデーC


聞き間違いだと思いたかったけど、私はその声だけは絶対に間違えない自信がある。
ミケさんが真正面に立っているから、まだリヴァイさんの方からも私の姿は見えてないはずだけど…。


「リ、リヴァイ!!どうしたの!?何してるの!?」
「あ?何を言ってるクソ眼鏡。会議が始まる時間になってもてめぇらが現れねぇから、こうして俺が探しに来てやったんだろうが。」
「えっ!?会議って今日だっけ!?」
「バカ言うなクソ眼鏡。忘れてんじゃねぇよ。」


その声と一緒にコツコツとリヴァイさんの足音が近づいてくるのを感じた私は、両手を握りしめ必死に息を押し殺す。隣を見ると、ハンジさんもすごく焦った表情をしていて。

(どうしよう!?バレちゃう…!!)

まだ潜入してから30分も経ってないのに…。リヴァイさんを驚かせたかったのに…!
こんなにもすぐにバレちゃうなんて、あっけなさすぎる。
もうダメだと、私は半ば諦めかけていた。

…その時だった。リヴァイさんが登場してからずっと黙っていたミケさんが、徐に口を開いたのは…。


「…リヴァイ。いつもお前に寄ってたかっているファン達が、こっちに向かって来ている匂いがする。俺達もすぐに行くから、お前は先に行け。」
「…チッ、分かった。さっさと来いよ。」


リヴァイさんがそう言ったかと思うと、あっという間に足音は遠のき聞こえなくなってしまった。すっとミケさんの大きな身体から顔を覗かせて確認すると、もうそこには誰も居なくて。
た、助かった…!と、一気に気が抜けた私は深く息を吐き、とっさに機転を利かせてくれたミケさんを見上げて言う。


「…ミケさん!ありがとうございました!本当に助かりました。また何かお礼させて下さい。」
「いや、礼ならいい。…その代りにこれからもリヴァイを頼む。」


その言葉に私は涙が出そうになった。ハンジさんやエルヴィンさんもそうだけど、リヴァイさんの周りはどうしてこんなに良い人達ばかりなんだろう。みんな変わってるけど、優しくて素敵な人達ばかり…。

「…ありがとうございます。任せて下さい…っ!」



それから、会議を忘れていたせいでリヴァイさんにバレてしまいそうになったことを、一頻り私に謝ったハンジさんと、大きくて優しいミケさんは2人揃って会議に行ってしまった。この場に1人だけ残って寂しいな、なんて思う間もなくやって来たのは104期のみんなで、さっきよりも数倍賑やかになった私の周り!


「名前さーん!次は何したら良いですかー?」
「おい!買い出し行ったの誰だ!?何で肉ばっかなんだよ!もっとバランス良く買えねーのか!」
「だって肉美味しいじゃないですか!?」
「サシャ!今日はてめぇじゃなくて兵長の誕生日の祝いだろーが!」
「おいジャン!お前サシャを責めてるけどお前も昨日、食堂の掃除手ぇ抜いただろ!本当に掃除のできねぇ奴だな。」
「うっせーよエレン!母ちゃんみたいなこと言うんじゃねぇよ!」


うん!これっぽっちも寂しくない!
わいわい言いながら料理を作ったり、会場である食堂を隅々まで綺麗に掃除したりと、104期のみんなのおかげで着々と準備は整いつつあった。みんなでする準備は楽しいなぁ〜なんて思いながらテーブルを拭いていると、私も何回か会ったことのある2人組が食堂に入ってくるのが見えた。


「オルオさん!ペトラさん!」
「「名前さん!お久しぶりです!」」


そう言って2人が深々と頭を下げるから、「こちらこそお久しぶりです。」と私もつられて深く深く頭を下げる。相変わらずこの2人は礼儀正しいなぁ。私の方が少し年上だけど、この2人の立ち振る舞いにはいつも感心させられる。


「何かお手伝いできることはありませんか?」
「ありがとうございます。でも、104期のみんなが頑張ってくれて、もうほとんど準備も終わりそうなんです。」


「こいつのせいで来るのが遅くなってすみません。」と謝るオルオさんを、「あんたのせいでしょ!」と言って肘で小突くペトラさん。この2人の掛け合いが私は大好きで、会う度にたくさん笑わせてもらってる。『調査兵団の漫才コンビ』と私は密かに思っていて。でも2人に言ったら嫌がられそうだから、リヴァイさんにしか言ったことないけど…。


「あっ!そうだ。今度お2人もぜひ家に遊びに来て下さい。この前、104期のみんなも来てくれたんです。」
「「い、良いんですかっ!?」」


予想以上の反応に私も嬉しくなってしまう。ペトラさんは瞳をキラキラ輝かせ、オルオさんは「兵長の自宅とかマジでやべぇ。」って繰り返してる。こんなに喜んでくれるんだったら、もっと早くに声をかけたら良かったなぁ。


「…でも名前さん。兵長の私物まみれの自宅なんて…俺…兵長の私物をハフハフしてしまいそうですっ…!」
「…え?オルオさん、ハフハ…」


と私が聞き返す前に、ゴンっ!と食堂に響く鈍い音。それと同時にふっとぶオルオさんの身体!


「名前さん、すみません。オルオのやつ嬉しすぎて気が動転したみたいで。ちょっと頭を冷やさせます。」
「は、はい…。」


にっこりとペトラさんは言う。
頭に会心の一撃を受けたオルオさんは、白目をむいたままズルズルとペトラさんに引きずられていく。大丈夫かな。生きてるかな。
でも…ハフハフって何なんだろう?
もしかしたらリヴァイ班にだけ通じる隠語なのかもしれない…!合言葉的な役割があるのかも!気になるから後でエレンに教えてもらおう。


今日ここに来て私が学んだこと…それは、分隊長のミケさんは優しい人、この国の女性兵士は強くて心強い、ハフハフという謎の隠語の存在。


どうやらこの世界は、まだまだ私の知らないことでいっぱいの様です!


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