あなたに贈るハッピーバースデーB


「ハンジさぁーん、こんにちはー!」
「名前ちゃーん!待ってたよー!その格好久しぶりだねー。」


今にも滑って転びそうな雪道を、両手でケーキを抱え細心の注意を払いながら1歩ずつ踏みしめていた私は、やっと目的地である調査兵団本部に辿りついた。本当に少しでも気を抜くと、すぐにバランスを崩しそうになる危ない道のりだったけど、ケーキも私自身もなんとか無事だった。リヴァイさんの予言通り、道に出た瞬間滑って転びそうになったけど…。

「ハンジさん、今リヴァイさんは何をしてるんですか?」

私とハンジさんが待ち合わせ場所にしたのは、本部の門の前。
ここなら仕事中のリヴァイさんは絶対に来ないだろうし、高確率でリヴァイさんがいる兵士長室からも見えないはずだけど、内緒で潜入すると思ったら思わず声が小さくなってしまう。


「リヴァイは兵士長室で書類仕事してるはずだよ。だから大丈夫!それより名前ちゃん、それ言ってたケーキだよね!?後で私にも見せて!」
「ぜひ見てもらいたいです。初めて作ったから変じゃないか不安で…。」
「大丈夫だよ!名前ちゃんが一生懸命作った物なら、リヴァイはどんな物でも喜ぶと思うよ!」


うーん、そうかな…。リヴァイさん喜んでくれるかな…?少し不安だなぁ。
でも、もしもケーキが不評だったらちゃんと反省して来年のプレゼントに活かせば良い!今日の私の1番の目標はリヴァイさんにハッピーな気持ちになってもらうことだから、いつまでも不安な顔をするのはやめてその目標に集中しよう。


「そう言えば、ハンジさんはリヴァイさんに何をプレゼントするんですか?」
「雑巾だよ!」


雑巾!?…ってあのねずみ色のボロボロのやつですよね?
それを誕生日プレゼントに選ぶなんて、もしかしてハンジさんとリヴァイさんは喧嘩中…?せっかくのリヴァイさんの誕生日に仲良しの2人が喧嘩だなんて…。そんなの悲しい。


「名前ちゃん!?違うよ!?雑巾って言っても未使用だよ!掃除好きのリヴァイを思ってのプレゼントだからそんな泣きそうな顔しないで!」
「あぁ!なるほど…。良かったぁ。」


びっくりしたぁ。そうだよね。雑巾っていってもよく考えたら、最初からボロボロなんじゃなくて掃除に使ったりしてる過程で汚れていくんだから…。
喧嘩中じゃなくて良かったぁと胸を撫で下ろしていると、「私はプレゼントの話をしてるのに使用済み雑巾を連想する名前ちゃんの思考回路が怖いよ!実はサディストなんじゃないの!?」ってハンジさんに言われちゃった。いえ、私にその気は全くないはず…です。


何はともあれ無事に合流した私とハンジさんは、会場の準備の為に食堂へと向かう。エルヴィンさんの許可もばっちりとってるし、あとは準備をするだけ!


「そろそろ104期もここに来るはずだよ。何人かには先に買い出しに行くように言ってるけどね。」
「ハンジさん、本当にありがとうございます。」


一応私とハンジさんの2人が幹事だけど、ほとんどハンジさんのお世話になってる気がする。やっぱり調査兵団の分隊長さんだから、部下に指示を出したりとか得意分野なんだと思う。お世話になりっぱなしで…また何かハンジさんにお礼させてもらわないと。


「おっ、来たかな?…ってミケ!?何してるの?」
「甘い匂いがしたのが気になってな。それより、誰だ?見ない顔だな。」
「そうだミケは会ったことなかったよね。」


ハンジさんがミケと呼ぶその大きな男の人(リヴァイさん2人分ぐらい…?いや、それは言い過ぎかな。リヴァイさんに怒られる。)は、足早に私の前までやって来てピタっとその足を止めた。近くで見るとやっぱりすごく大きい!「挨拶しないと!」と、思った瞬間そのミケさんは身を屈め私の首元の辺りでスンスンと鼻を鳴らした。

(えっ!?匂い嗅いでる!?うそ、私変な匂いするの?…今日はリヴァイさんの誕生日なのに。よりによってそんな日に変な匂いをさせてるなんて…シャワーしないと…!)


「…リヴァイと同じ匂いがする。」

変な匂いとか臭いとか言われちゃうんだと思ってたけど、顔を上げたミケさんが言ったのはとっても意外な言葉だった。

(…リヴァイさんと…同じ…?それは…すごく嬉しい…。)


「あはは!そりゃそうだよミケ!だって名前ちゃんはリヴァイの奥さんなんだから。毎晩あんな事とかそんな事とかしてたら同じような匂いもするでしょ。」
「ハンジさん!?してませんよ!?毎晩だなんて!」


「またまた〜。」と身振りを交えて茶化すように言うハンジさんと、顎を手で触りながら「そうか。今日だったな。」と納得の表情のミケさん。やっぱり調査兵団の人は変わった人が多いなと改めて思っていたその時、真正面に立つミケさん越しにとても聞き覚えのある私の大好きな人の声が聞こえた。


「おい、お前らそこで何してる?」


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