キス・イン・ザ・ダークに酔わされて
「リヴァイさん遅いなぁ…。お腹空かせてるだろうなぁ。」
リビングの時計を見るともう9時をまわっていて、朝家を出る時にリヴァイさんが言った「今日は遅くなるから先に飯食ってろ。」の言葉が私の頭には浮かんでいた。ぐぅーと静かな部屋で少し大きく聞こえる私のお腹の音。
(でも、ご飯はやっぱりリヴァイさんと一緒に食べたいから…。)
こうして待っていると、リヴァイさんは「先に食ってろって言っただろ。」っていつも少し怒るんだけど…。
そんなことを考えていると、ピンポーンとインターホンの音が部屋に響いた。
(リヴァイさんだ!)
嬉しくなった私はパタパタと玄関まで走り勢いよくドアを開けた。
「リヴァイさん!おかえりなさい!」
「…奥さん。確認もしないでドアを開けるなんて不用心ですね。」
でも、私の目に飛び込んできたのはリヴァイさんではなく、知らない男の不気味な笑顔。危険を感じた私はすぐにドアを閉めようとしたけど、それは男の手によって阻まれてしまい…。
「旦那さんと間違えちゃったんだ。可愛いね。」
「…い、いやっ…!」
男はドアの隙間からするりと中に入り、そのままその場に私を押し倒した。
背中にあたる玄関の床は冷たくて、押しのけたいのに恐怖で身体が動かない…。
「…リ、リヴァイ…さん…」
「それ旦那の名前?残念だけど俺は旦那じゃないよ。」
私の両手を押さえつけ、見下ろしながら言う男の笑顔に血の気が引く感覚がした。そうだ。リヴァイさんはいつもインターホンを鳴らしたりしないのに…。
「本当に残念だったね。」
そう言って男は私の首筋に顔を埋めた。肌をなぞる舌の感覚はリヴァイさんのものじゃない。
「…いや…っ…リヴァイさん…リヴァイさんっ!!」
その時、バンっと玄関のドアが開いて飛び込んで来たのは、今度こそ愛しいリヴァイさんの姿だった。
「…てめぇ、そいつに何してやがる。」
怒気を帯びた声が聞こえたかと思うと、次の瞬間には男は私から引き剥がされ、勢いよく外に蹴りだされた。リヴァイさんの蹴りのあまりの威力に、男はうずくまり呻き声を上げている。
「…殺す。」
「…う、うわああっ!!」
リヴァイさんから感じる恐ろしいほどの殺気に怯えたのか、男は目にもとまらないような早さで逃げて行った。
「…チッ。ザコが。」
そう吐き捨て乱暴にドアを閉めたリヴァイさんは、あまりの恐怖で床から立ち上がれない私を力強く掻き抱いた。
「…何事かと思っただろうが…。」
「…ごめん…なさい…。私…リヴァイさんだと思って…ドアを…」
その腕の中にひどく安心した私は、堪え切れず涙を零した。私の涙はリヴァイさんのスーツにしみ込んでいく。
リヴァイさんの帰りがもっと遅かったらと思うとゾッとする。
「あいつに何された。」
「…えっ?…押し倒されて…。」
首筋を舐められたなんて言ったらリヴァイさんきっと怒る…。どうしよう…。
「名前、ちゃんと話せ。」
まっすぐに見つめられると、目を逸らせなくて。これだからリヴァイさんには隠し事なんてひとつもできない…。
「…首筋を…舐められました…。」
正直に答えると、リヴァイさんは眉間にシワを寄せ、いきなり私の首筋に舌を這わせた。
「んんっ…っ…」
その舌遣いはいつもより乱暴で、込み上げてくる甘い声を抑えることができない。玄関という場所のせいか音がよく響く気がする…。
「名前に触れて良いのは俺だけだ。」
「…リヴァイさん…ご飯…んっ…ふ…っ!」
私の言葉は熱い口づけによって塞がれてしまい、再び床へと押し倒される。今度は大好きなリヴァイさんによって。
私の濡れた唇を舐め取るその仕草も、スーツの上着を脱ぎ捨てネクタイを緩めるその仕草も…全部に色気を感じて胸の鼓動が速くなる。
「ん…っ…は…っあ…」
絶え間なく与えられる快感に、漏れそうになる声を抑えるのに精一杯で…。
玄関でこんなこと…絶対にダメなのに…。
それでも、耳の中まで犯すこの舌を、服の下から肌を滑るこの手を、乱暴で優しいこの唇を拒絶しないのは、きっと私があなたに酔わされているから。