混じり合う陽だまりの中で


妊娠が発覚した2日後の朝、調査兵団の本部でのお仕事を手伝う為にリヴァイさんと一緒に家を出ると、外は太陽がキラキラと眩しくて暖かく気持ちの良い日だった。体はいつもより怠くて何だか眠いし、波のように吐き気もやってくるけどやっぱり外に出て良かったと思う。
リヴァイさんは家を出る直前まで「腹のガキに何かあったらどうすんだ。」って言って私が外に出ることを反対してた。でも、家の中で1人で塞ぎ込む方がしんどいし、それに…すぐ近くにリヴァイさんが居るだけですごく安心するから。


「名前。人の顔見てねぇでちゃんと前見て歩け。コケたら危ねぇだろ。」
「そうですね。でも…さすがにこんな何もない所では転びませっうわぁっ!」
「おい名前っ!!」


言ってるそばから石につまづいて転びそうになった。リヴァイさんがとっさに体を支えてくれなかったら、今のはちょっと危なかったかも…。


「だから言ってんだろ。」
「…はい。ごめんなさい。」


いつもならちょっとドジして転んでも笑い話で済むけど、お腹に子供がいる今はそうはいかない…。本当に気を付けなくちゃ。

「危なっかしくて見てられねぇな。」

リヴァイさんはそう言って、私の膝裏を掬い上げてひょいと軽く横抱きにした。


「リヴァイさん!?」
「こうでもしねぇと俺の心臓がいくつあっても足りねぇ。」
「でもここ外ですよ!」


道行く人達が何事かとこっちをジロジロと見てる。そりゃあ道の真ん中でこんな事してたら、嫌でも目に付いちゃいますよね!?


「嫌なら家に戻るか?」
「う…。それは嫌です。」
「なら大人しくしとけ。」
「…はい。」


リヴァイさんが心配してくれる気持ちはとっても嬉しいけど、外なのに抱きかかえられたままのこの状態はやっぱり恥ずかし過ぎる…。だから本部に着くまで、私はずっと両手で顔を覆っていた。途中で「いつまでそうしてるつもりだ。」ってリヴァイさんに少し呆れた声で言われちゃったけど。



「みんな名前ちゃん来たよ!なんかリヴァイにお姫様だっこされてる!」


そのハンジさんの声で、今まで顔を覆っていた私は本部に着いたことを知った。こんなところを調査兵団のをみんなに見られるのは、知らない人に見られるよりも何倍も恥ずかしいっ!


「リヴァイさん、ありがとうございました!もう大丈夫です!」
「…くれぐれも気を付けろよ。」
「はいっ!分かりました!」


お仕事を手伝いにここに来る度によく話しかけてくれる104期のみんなも、ハンジさんと一緒に入り口の所で待っててくれたのか笑顔で駆け寄って出迎えてくれた。アルミンにミカサにサシャにエレンにコニー…みんないつも私と仲良くしてくれる可愛くて大事な存在。


「名前さんおめでとうございますっ!」
「昨日兵長から聞きました!体は大丈夫なんですか?」
「3ヶ月目なんですよね!?」


みんなが口々にお祝いの言葉をくれたり、体調を気遣ってくれるのが嬉しかった。妊娠がちゃんと分かったのは一昨日なのに、もうみんな知ってくれてたんだ。それにみんな訓練で大変なのに、私が来るのを待っててくれたなんて…。


「みんなありがとう。もう知ってくれてたんだね。」
「昨日、兵長から聞きました!」
「もう調査兵団の中で名前ちゃんの妊娠を知らない人は居ないと思うよ。ね?エレン?」
「はい。恐らく…いや確実に全員知っていると思います。」


すごい…!調査兵団は情報の伝達がすっごく早いんだ!きっと巨人が現れたりしたらすぐに情報を回さないといけないからだと思う。やっぱり調査兵団のみんなはかっこいいなぁ…。


「名前さん。これ…僕たち104期からです。たくさんは買えなかったんですけど…良かったら貰って下さい。」


調査兵団のかっこよさをしみじみと噛みしめていた私に、アルミンが手渡した紙袋。その中にはオレンジとグレープフルーツが入っていた。


「あとこれも…。本当は100本ぐらい見つけたかったんですけど。」


そう言ってエレンが差し出したのは、1本の可愛い四つ葉のクローバーだった。四つ葉のクローバーなんて久しぶりに見た。これ…なかなか見つからないのに…。


「訓練が終わってから、しかも夜だったから全然見つけられなくて…。」
「今日の訓練終わりにまた探しに行きましょうよ!」
「そうだね。最低でもあと兵長とお腹の子供の分と2本は必要だよ。」


みんなが私達の幸せを願ってくれているのが痛いほど伝わってきて、その優しさに胸がいっぱいで涙が溢れて止まらなかった。


「みんな…ありがとう…っ。…本当に…本当にありがとうっ…。」
「名前さん!?どうしたんですか!?」


怖いくらいの幸せが1度に押し寄せて来て、夢なのかもしれないと錯覚してしまうほどだった。


「良かったな。」
「はい…っ。」


周りには泣き出した私を心配そうに見つめる104期のみんなとハンジさん。それに、私の隣には優しい眼差しのリヴァイさんが居て…。

私は今日の光景を、たくさんの人からもらったあったかくて幸せなこの気持ちを、一生忘れない。


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