つまりはそこに標された愛


その知らせはある日突然やってきた。

「全員集合しろ!お前らに大事な話がある。」
「「はっ!」」

リヴァイ兵長のそのかけ声で、俺やリヴァイ班の先輩方は敬礼をして兵長の周りに集まった。一体どんな話なんだ…。いつもはクールに登場する兵長が珍しく走って現れたから、きっと人類の存亡に関わるすげぇ話なんだと俺は思う。
周りを見ると兵長のいつもとは違う雰囲気に先輩方も心なしか緊張の表情を浮かべている様に見える。

「実は…。実はだな…。」

口を開いた兵長の言葉に高まる緊張感。どうしてこんなに言うのを溜めるんだ。はっ!まさか!どこかの壁が破られて巨人の侵入を許してしまったのか!?…くそっ!1匹残らず駆逐してやるっ!だから兵長も言いにくいのか。そうなんですよね!?兵長!?


「…名前が妊娠した。」
「え…そうなんですか!?兵長!おめでとうございますっ!」
「兵長!子供さんの名前はぜひオルオでどうですか!?」
「めでたいな。」
「あぁ。自分のことの様に嬉しいな。」


…は?名前さんが妊娠…。それはすごくめでてぇし俺も嬉しいけど…。わざわざ朝から巨人殺しの達人集団であるリヴァイ班全員を集合させて、しかも溜めに溜めてから言うことなのか。

「落ち着けお前ら。今から詳しく聞かせてやる。妊娠が分かったのは昨日だ。名前の様子が数日前から…」

普段の兵長からは想像も出来ないぐらいによく喋る。…ほんとによく喋る。一体どうしちまったんだ兵長…。こんなの俺の知ってるリヴァイ兵長じゃない。


壊れた様に喋り続ける兵長の話を聞くこと30分…。まだ訓練は始まらねぇのかよ。兵長の話は一体いつまで続くんだ。


「…まぁ、簡単に話せばこんなもんだ。」
「兵長!詳しく教えて下さってありがとうございました!」
「あぁ。別に構わねぇ。ところでエレン、お前は男か女、どっちだと考える?」


…話は終わったんじゃなかったのか。まだ続いてるのか。それに…男か女…そんなの分からねぇよ!ここは…適当に答えるしかないっ!


「自分は…男だと思います!」
「あぁ?何故だ?ちゃんと根拠を述べろ。」


俺が男だと言った瞬間に兵長の目が一瞬ギラッとしたのは気のせいか…?根拠とか…そんなもんねぇよ!産まれてくるまで分からねぇもんなのに!


「そう感じたからです!」
「チッ…ガキが。根拠もねぇのに男とか言うんじゃねぇよこの愚図!」


何でそんなに機嫌悪くなんだよ。怖ぇよ。それに…こんな事ここではオルオさんにしか思ったことなかったけど、…ちょっとウゼぇ。


「エレン、お前はもう良い。次、ペトラ。言ってみろ。」
「私は…女の子だと思います。」
「そうか。さすがだ。」
「へ、兵長…。」
「次、オルオ。」


おいおいこれ全員に聞いていくのかよ。それにどうしてペトラさんには根拠聞かねぇんだよ。それどころか兵長に褒められてペトラさん涙組んじまってる…。先輩方はいつまでたっても訓練が始まらないこの状況をおかしいとは思っていないのか!?


「俺も女の子だと思いますっ!」
「そうか。オルオ…お前もさすがだ。」
「へ、兵長ぉぉぉお!!」


ま、まさか…!兵長は女だって言って欲しかったのか!?先輩方はそれに気付いていたのに。そうか…俺が新兵だから今の状況を呑み込めていないのか。

「エレーン、ちょっと来てー。」

兵長の班員達への男か女かの質問が続く中で、少し開けたドアから顔を出し小声で俺を呼ぶハンジさんの声が聞こえた。

(き、救世主!)

兵長に気付かれない様に忍び足で部屋を出ると、ドアの向こうにはハンジさんとエルヴィン団長まで居た。


「お2人ともどうしたんですか!?」
「リヴァイの様子を見に来たんだけど、相変わらずっぽいね。」
「兵長、名前さんの妊娠で壊れた機械みたいに喋り続けてます。」
「うん。私は朝から1時間捕まった。」
「俺は2時間話を聞かされたな。」


すげぇ…。2人ともすでに捕まった後だったのか。それに2時間って…相当じゃねぇか!


「リヴァイ…よっぽど嬉しいんだろうね。」
「あぁ。あんなリヴァイを見たのは初めてだ。新しい家族が増えることがこの上なく嬉しいんだろう。」


捕まって散々話を聞かされた後なのに、ハンジさんとエルヴィン団長の目は優しかった。そうか…。2人が言うように、兵長はあんなになっちまうぐらい嬉しいんだ。俺もいつか誰かと結婚して子供が出来たら、今日の兵長の気持ちが分かるかな。


「そういう事でエレン、リヴァイをよろしく頼む。今日はきっと1日中あんな感じだろう。」
「団長!分かりましたっ!俺は兵長の話を聞き遂げますっ!」
「あぁ、助かる。俺は付き合いきれな…仕事が立て込んでいて聞いてやれないんだ。」
「明日は名前ちゃんが来る日だから今日よりはマシだと思うよ。今日が峠だと思って頑張って!」
「分かりましたっ!」


お2人はきっと兵長の話を聞いてあげたいんだろうけど、忙しくてそうもいかないんだ。だから俺が…兵長の話を聞き遂げる!どんなに長くても、どんなにウザくても!どこまででも付き合いますよ、兵長!でも、今日限りでお願いします!


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