Where's the ring!? 後編


オレンジ色の空に少しずつ群青が混ざり出し、夜が忍び寄る気配。
私は家から昼間に出かけたお店の辺りまでの道を辿り、必死に指輪を探していた。


(ないっ…ない…っ!)


地面に這いつくばって、周りの目も気にせず必死に探す。かき分けた草や砂利で手には血が滲んだ。


(お願い出てきて‥!)


「どうしたのお嬢さん?大事な物でも失くしたのかい?」


道行く人が声をかけてくれた。あまりに必死な私の姿は異様に映ったんだと思う。「一緒に探そうか?」と優しく言ってくれる人も居た。…でも、これは私自身で見つけなくちゃいけないものだから。


「ありがとうございます。…でも大丈夫です。お心遣い本当にありがとうございます。」


そんなやり取りを何回かした頃、私は辺りが真っ暗になっていることに気が付いた。昼間とは違うひやりとした風が頬を撫でる。


(街灯の光だけじゃ全然見えない…。)


その事実を認めた私は、その場にヘナヘナと座り込んだ。もう服も手も土でドロドロだった。


(見つけられなかった…。)


自分のふがいなさやリヴァイさんへの申し訳なさで、次から次へと大粒の涙が零れ落ちる。


「…っ…う…リヴァイ…さん…」


リヴァイさんのことが大好きで、あの指輪が大切なのは本当の気持ち。でも、それを失くしちゃったってことは、ほんとは大事にできてなかったのかな…。もうリヴァイさんに会わせる顔がない。
でも、こんな時にも頭に浮かぶのはリヴァイさんの優しい表情だった。


「おい名前。暗くなる前に戻るんじゃなかったのか。」


突然背後から聞こえた声に、ビクンと肩が揺れる。どうしてここに?そう思いながらも、私にはどうしても振り向くことができなかった。


「さっさと帰るぞ。」
「もう…帰れません…。」


嗚咽交じりに絞り出した声。私はもうリヴァイさんの妻失格です。だから、あの家には帰れない。


「何故だ?」


リヴァイさんは落ち着いた声で私に問いかけた。土で汚れた手で涙を拭い、私は立ち上がりリヴァイさんの方に向き直った。ちゃんと説明しなくちゃ…。


「…リヴァイさん…ごめんなさい。…私…結婚指輪を…失くしました。…だから…妻…失格です…。」


せめて説明する間は涙を我慢しようと思ったのに、込み上げてくる感情を我慢できず最後の方はちゃんとした言葉にならなかった。


「そんなことだろうと思った。」
「え…?どうして…?」
「お前の様子がおかしいことぐらいすぐに気付く。それに風呂場に料理の本があんのかよ。」


顔を上げると目に入ったリヴァイさんの表情には、怒りの色は全く見えず私の予想と違って優しいものだった。


「どうして怒らないんですか…?私は…大事な指輪を…失くしてしまったんですよ…?」
「あんなもんは形式的なもんだろ。大したことじゃねぇ。」
「でも…。」


そうは言うけど、特別で大切な意味が込められた指輪なのに…。


「でもじゃねぇ。名前、お前は俺がどれだけお前に惚れてんのか知らねぇんだろ。」


突然、腰に手を回し抱き寄せられ、至近距離で発せられた言葉。唐突なその言葉に思わず口籠ってしまう。


「えっ…?その…。」
「例えお前が指輪を失くしたんじゃなく、俺に愛想を尽かして捨てたりしても、俺はお前を離すつもりはねぇ。」
「…リヴァイさん。」
「それぐらい俺には名前しか考えられねぇんだよ。それにあの指輪が無くても、俺はお前が居ればそれで良い。」


リヴァイさんは真剣な目で真っ直ぐに私を見つめていて、本気で言ってくれてるんだってことがひしひしと伝わってきた。


「リヴァイさん…っ…。私…本当に…ごめんなさい…っ。」


また泣き出した私の顔を両手で挟む様にして上を向かせ、額や瞼、頬とリヴァイさんはたくさんのキスを落とした。そして最後に、優しく重ねられた唇。


「分かったならもう泣くな。」
「…はい。」


「ほら帰るぞ。」と言って差し出されたリヴァイさんの手。私は土で汚れた手でその手を取った。この右手の温もりだけは、この先何があっても絶対に失くしちゃいけないと思った。


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