春に酔い 桜色の頬にキス


いつもの様に何ら変わりのないある日の夜。シャワーを浴びて部屋に戻ると、名前の様子が明らかにおかしかった。

「リーヴァーイさぁーん!」

上機嫌で俺を呼ながら勢い良く抱き付いてきたと思ったら、一向に離れようとしない。


「…寂しかった…。」
「2、30分しか経ってねぇだろ。」
「…でもっ…そういう寂しくなる時もあるじゃないですか…!」


そう言って顔を上げた名前からは、微かに酒の匂いがした。よく見ると白い頬がうっすらと桜色に染まっている。


「名前、お前酒飲んだのか?」
「えっ?お酒…?飲んでませんよ。」


その様子からは嘘をついているようには見えない。でも、これはどう見ても酔ってんだろ。そう思い視線を名前からテーブルに移すと、明らかに酒の瓶らしき物が俺の目に入った。


「名前、あれは何だ?」
「あれは今日、ハンジさんがくれた果実酢です。美肌効果があるらしくて、さっき飲んだらすっごく美味しくって。リヴァイさんも飲んでみますか?」


俺に抱き付いたままの名前は答える。果実酢…?いや、あれはどう見ても酒の瓶だろ。あのクソ眼鏡、俺に断りもなく名前に何飲ませてんだ。


「リーヴァーイーさぁーん。」
「何だ?」
「ふふっ。何でもありません。」


そう言って名前は嬉しそうに笑ってやがる。何が面白いのかさっぱり分からねぇ。ただ一つ分かることは、間違いなく俺は今、酔っ払いに絡まれているということだ。


「…リヴァイさん…大好きです。」


俺を見つめる名前の熱に浮かされた様な目、いつもより舌足らずな喋り方、それに上気した頬…そのどれもが襲ってくれと訴えている様にしか見えない。
そんな名前の唇を、俺は返事の代わりに塞ぐ。

「…幸せ…」

それに加えキスの後のこの発言。この瞬間に俺は確信した。

(間違いねぇ。こいつ誘ってやがる。)

そう確信した俺は、抱きついたまま離れようとしない名前を引き剥がし、横抱きにしてベッドに向かった。

「…リヴァイさん…?」

俺の行動に名前は首を傾げたが、今さらとぼけたって無駄だ。誘ったのはお前だろう。
ベッドに降ろすと、名前はまた手を伸ばし俺に抱きつこうとする。いつもならこんな状況の時は、待ってだの部屋が明るいだのごちゃごちゃ言うくせに今日は随分と積極的だな。
明日、俺に断りもなく名前に酒を渡したあのクソ眼鏡をどんな風に削いでやろうかと考えていたが、今回だけは見逃してやることにした。


「名前、お前は酔ったら甘えるんだな。」
「…私…酔ってませんよ…?」
「酔っ払いはみんなそう言うんだ。」


ベッドに頬杖をつき普段とは様子の違う名前を見下ろしながら、桜色に染まった頬をゆるりと撫でてやると、名前は嬉しそうに笑いながら俺の胸に頬をすり寄せた。あの名前をここまで積極的にさせるとは、酒の力は偉大だな。


「リヴァイさん、好きです。」
「あぁ。俺も好きだ、名前。」


耳元で囁くようにして言うと、名前はくすぐったそうに少し身を捩った。たまには酒を飲ますのも悪くねぇなと思いながら、俺は名前の唇に口付ける。


そのまま名前を組み敷き、寝巻のボタンに手をかけた時、俺はあることに気が付いた。

「…こいつ…信じられねぇ…。」

俺の瞳に映ったのはスースーと寝息を立てる名前の姿で、試しに肩を揺さぶってみてもぴくりともしねぇ。自分から誘っておいて先に寝るだと…。あまりに鬼畜過ぎんだろ。俺はそんな風に名前を躾けた覚えは無い。


「…ん…リヴァイ…さん…」
「…幸せそうな顔しやがって。」


その気にさせておいて、俺を残しさっさと寝やがった名前への復讐として、俺はその柔らかな首筋に複数の紅い痕をつけることにした。もちろん服を着ても見えるような場所に。
明日の朝、鏡を見た名前が慌てふためく姿が目に浮かぶ。きっと半泣きで大騒ぎするんだろう。


そんな俺の企みなど全く知ることもなく、呑気に眠りこける名前を抱きしめながら、仕方なく俺は眠りに就くことにした。


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