温度をうつして


「名前、水ぐらい飲まねぇと干からびて死んじまうぞ。」
「…はい…でも身体がだるくて…。」


熱を出しベッドで寝込んでいる名前は、さっきからずっとこんな調子だ。食欲が全くないらしく、水分さえも取ろうとしない。ベッドから起き上がることさえも、今の名前にとっては一苦労なんだろう。水で絞ったタオルを名前の額にのせながら俺は思った。

いつもより熱い頬に触れると、「冷たくて気持ちいい。」と言って久しぶりに見せた笑顔に安心する。やっぱりこいつは笑った顔が1番よく似合う。でも、このまま水さえも受けつけなかったら、本当に死んじまうんじゃねぇかという不安が一瞬頭を過った。

「名前、自分で飲めねぇなら俺が飲ませてやる。」

そう言って俺は手に取ったグラスに口をつけ、そのまま水を煽り、何かを言いかけた名前の唇を構わずに封じ込める。唇を割りひらいて口に含んでいた水を流し込むと、受け止めきれずに零れた水が名前の顎や首筋に伝った。


「…っ…はぁ…リヴァイさんにうつっちゃいます。」
「構わねぇよ。」


初めからできることなら代わってやりたいと思っていた。俺に風邪をうつしてお前がこの苦しみから解放されるなら、それは本望だ。

構わないと言われて困惑の表情を浮かべる名前の首筋に顔を埋め、さっき零れ落ちた水を舐め取ると名前は小さく声をあげた。


「…んっ…リヴァイさん…。」
「風邪のくせに感じてんのかよ。」
「ち、違いますっ!!」


口角を上げ意地悪く言ってやると、熱のせいでいつもより赤い顔をさらに赤くした名前は、バサっと頭まで布団を被り顔を隠した。
でも、そう時間の経たねぇうちにすぐに首元まで布団を取り払い顔を出す名前。


「何だ、もう隠れなくて良いのか?」
「頭までお布団被ったら息が苦しくて…我慢できませんでした…。」
「…馬鹿だな。お前は。」


こいつと居ると本当に気が抜ける。兵士長という立場でいつも気を張っているのが嘘みてぇに。それだけ俺は名前の存在に救われているということを、こういうふとした何でもない時に改めて思う。
 

「…はぁっ…ほんとに苦しかった…。」


それにしても、風邪で苦しむ名前の上気した頬や潤んだ瞳、いつもより掠れた声に少し荒い呼吸。…その全てが俺を誘っているとしか思えなかった。さすがに病人に手を出す訳にはいかねぇが…。


「とんだ生殺しだな。」
「何のことですか…?」


俺の気持ちになんて全く気付く様子もなく、無防備に首をかしげる名前を襲ってやろうかと思ったが、何とか理性で踏み止まる。


「別に何でもねぇよ。」
「……?。リヴァイさん、そう言えばお布団ってもうこれで全部でしたよね?」
「あぁ、そうだ。まだ寒ぃのか?」
「…少しだけ…。」


少しと言いながらも、名前の身体は震えていた。俺を心配させねぇように強がるのはこいつの悪いクセだ。今だって本当は我慢できないぐらい寒ぃんだろう。

そんな名前の様子を見て、俺は自分の着ていたシャツを脱ぎ捨てベッドに潜り込む。


「リ、リヴァイさん!?いきなりどうしたんですか!?」


言いながら、名前は身体を反転させ俺に背中を向けた。今さら上半身の裸ぐらいで何が恥ずかしいのか俺にはさっぱり分からない。何度も見てんだろと言ってやりたくなる。


「寒ぃならこうするしかないだろ。お前もさっさと脱げ。」
「で、でもっ…!」


躊躇う名前に構うことなく、俺は服をたくし上げ無理やりに名前から服をはぎ取る。すぐに目の前に露わになったその白い背中。俺の理性もいつまでもつか分からねぇな。と思った。

腕をまわし、震えるその身体を閉じ込めるようにして抱き寄せると、肌から伝わる名前の温度はやはりいつもより熱い。


「…リヴァイさん…恥ずかしいです…っ。」
「我慢しろ。お前が何エロいこと考えてんのかは知らねぇが、これは看病だ。」
「で、でも…。」
「ごちゃごちゃうるせぇな。良いからこっちを向け、名前。」


そう言うと名前は自分の身体を手で隠す様にしながら、俺と向かい合うようにおずおずと向きを変え、そのまま今度は自分から腕をまわして俺に抱き付いてきた。


「…リヴァイさん…あったかい…。」


恥ずかしがってるのか大胆なのか、こいつは本当によく分からない。そういう所が俺はけっこう気に入ってたりするわけだが…。

「そうか。」と言って名前をきつく抱き締め返す。そのまま後頭部に手をまわし名前が逃げられないようにしてから、その唇に深く、深く貪るように口付ける。


「…んぅっ…んっ…」


苦しそうな声が聞こえても、俺は名前の唇を離さなかった。看病だとは言ったが、それ以外何もしないとは言っていない。これぐらいのキスは許されるだろう。

それに、俺に風邪をうつして名前は早くまたいつもの様に笑えば良い。お前の辛そうな表情は、もうたくさんなんだ。


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