朝を開け出して、夜を閉じ込めるまで
朝、目が覚めてまず気付いたのは雨の音。まだ隣で眠るリヴァイさんを起こさない様に、そーっとベッドを抜け出しカーテンをめくると、目に入ったのは予想通りの雨模様。
「雨かぁ…。」
今日は晴れていたら、リヴァイさんと一緒にお弁当を持って丘に出かける予定だったのに。一向に晴れそうにない雲の様子に私は肩を落とした。
「…雨だな。」
その声にびっくりして振り返ると、すぐ後ろにはいつの間に起きてきたのか伸びをするリヴァイさんがいた。外のお天気にばかり気を取られていて、リヴァイさんがいつからそこに居たのか全く気が付かなかった。
「リヴァイさんおはようございます。」
「あぁ。」
返事と一緒に唇に降ってきた軽いキス。朝がどんなに早くても、お休みの日でも毎朝リヴァイさんが欠かさずにしてくれるおはようのキスが、私は大好き。
「残念だったな。お前弁当作って丘に行くってはりきってただろ。」
「…そうですね。でも、それはまたの楽しみにとっておきます。」
前に1度だけリヴァイさんとお散歩したあの見晴らしの良い丘は、風がとても気持ち良くって居心地も良くて、リヴァイさんのお休みである今日、また一緒に行けると楽しみにしていたけれど…雨が降っているものはしょうがない。
「朝ご飯にしましょっか。」
時間に追われることもなくいつもよりのんびりとした朝食を終えたあと、特に今日中にしなくちゃいけないことも無くて、リヴァイさんはお気に入りの定位置である椅子に座り読書を、私はそんなリヴァイさんの隣でやりかけの編み物をすることにした。雨の音を聞きながら、こうやってリヴァイさんとのんびり過ごせるなんて、とても贅沢な時間だなぁ。
「名前、お前それこないだから何作ってんだ。」
「これは実は…リヴァイさんのセーターを編んでます!」
「………。」
あ、やっぱりちょっと嫌な顔した。この顔は、手作りセーターなんて恥ずかしいもん着れる訳ねぇだろとか思ってるはず。
「大丈夫ですよリヴァイさん!これはお家用ですから。」
「そういう問題かよ。」
あれ?そういう問題じゃないのかな。でも、もうすぐ本格的に寒くなってくるし、リヴァイさんが風邪とか引いて苦しむのは嫌なんだけどなぁ。うーん、でも本人に嫌がられたらしょうがない。この毛糸の深めの青色がリヴァイさんに似合うと思ったんだけど…。
「じゃあ、無理に着てもらう訳にもいかないので、このセーターはハンジさんにプレゼントすることにします。」
この前本部に行った時にハンジさんにこのセーターの話をしたら、すごく興奮した様子で「私も名前ちゃんの手作りセーター欲しいっ!」って言ってくれたことを私は思い出していた。まだ作り始めたばかりでサイズの変更もできそうだし。うん、そうしよう。
「…待て。俺が着なかったらそれはあのクソ眼鏡の手に渡るのか。」
「ハンジさんセーター欲しいってこの前言ってたんです。」
「………………俺が着る。」
ボソッと呟く様に言うから少し聞き取りにくかったけど、気が変わったのかどうやらリヴァイさんはこのセーターを着てくれるらしい。
「ええっ!?じゃあはりきって大きくリヴァイさんのイニシャルとか入れちゃいます!」
「…それは止めろ。」
「ふふっ。冗談です。」
眉間にシワを寄せて真顔で言うリヴァイさんがおかしくて。どうしてリヴァイさんが居るとこんなに楽しいんだろう。
「それはそうと、今日は出掛けられなくて残念だったな。お前あの丘気に入ってるんだろ。」
「そうですね…。でも、私の1番のお気に入りの場所は、いつでもリヴァイさんの居るところですから。」
それが朝でも夜でも、晴れでも雨でも…。私のお気に入りはいつだってリヴァイさんの居るところ。これはリヴァイさんと出会ってから、もうずっと変わってない。
「名前、お前誘ってんだろ。」
「はい!?」
リヴァイさんから返ってきた言葉が意外過ぎて、少し大きな声を出してしまった。今の話の何がどうなったらそういう事になるんでしょうか…。どうしてそうなったのかを考えている間にも、私の手から編み物セットは取り上げられ簡単に横抱きにされてしまう。リヴァイさんの足は、これは予想通りのベッドに向かっていて…。
「リ、リヴァイさん!まだ午前中ですよ!?」
「関係ねぇ。」
「そ、それに!昨日だって…あんなに…。」
「あんなに何だ?ちゃんと最後まで言え。」
本当は分かってるくせにリヴァイさんはわざとそう言う。恥ずかしがる私を見て意地悪な笑みを浮かべるそんな表情まで大好きだなんて、私は少しどうかしているのかも…。
「リヴァイさんの…意地悪。」
でも、こんなに明るいうちから大好きな人と愛し合う。そんな休日もたまには良いのかもしれないと思い、私はリヴァイさんの首に自分から腕をまわした。