マーマレードに魔法をかけて 後編


「うわぁーこんな大きな木あったんですね…!」


あの後、私とリヴァイさんは調査兵団本部のすぐ近くにある大きな木の下に来ていた。その木は本当に背が高くて、私は行ったことないけど有名な巨大樹の森の木もこれぐらいの高さなのかなぁと想像してしまう。そして、今からこの木に登るそうです!立体機動装置で!

(ドキドキする…。)

初めての立体機動装置での木登りにも少し緊張してドキドキするけど、それよりもさっき本部で見た、立体機動装置を真剣な表情で整備するリヴァイさんの横顔が…もう素敵すぎて…!あれは反則ですっ!しばらくはあの横顔を思い出してはドキドキする日々が続きそう。


「おい名前。ニヤついてねぇでこっちに来い。」
「は、はいっ!」


駆け寄った私にリヴァイさんが頭からすっぽりと被せた物。それは調査兵団の皆さんが着ている背中に大きく自由の翼が入った緑色のマントだった。


「…これ…。」
「俺の予備だ。冷えるから着とけ。」


そのマントを着たことによって、自分も調査兵団の一員になれたみたいで嬉しかった。それに…これは…今、まごうことなくリヴァイさんとペアルックです!!
…そんなこと言ったら「名前さん、それ俺達も全員着てます!」って104期のみんなには笑われそうだけど。

ペアルックの嬉しさを噛みしめていたら、リヴァイさんはひょいと私を横抱きにした。

「良いか名前。しっかり掴まってろ。」
「はいっ!」


まさかこんな体勢で登るなんて思ってなかったから恥ずかしかったけど、今は恥ずかしがってる場合じゃない!私がヘマしてリヴァイさんが怪我なんてしたら大変だから…!
私は言い付け通りにリヴァイさんの首元にしっかりとしがみついた。


「じゃあ登るぞ。」
「お、お願いしますっ!」


パシュっと音がして木に勢いよく突き刺さったアンカー。それに気を取られている私の身体を、ふわっと何とも言えない浮遊感が包んだ。

(う、浮いてるっ!)

生まれて初めての感覚に私は言葉を発することもできなかった。これが…リヴァイさんの感じている世界…。
マントを風になびかせ、タンッと太めの木の枝に着地したリヴァイさんはいつもよりかっこ良く見えて。胸の鼓動を落ち着かせようと視線を木の下に向けた私だったけど…それが間違いだった。

自分の想像をはるかに凌ぐその高さと恐怖感に、目眩がしそうになった。


「…リ、リヴァイさん!もう充分にどんな感じか味わえたので、ありがとうございました!本部に戻りましょう!」
「なんだ名前、怖ぇのか?」
「…少しだけ…。」
「なら仕方ねぇな。降りるか…。」


本当はすっごく怖いのに、強がって少しだけとか言っちゃった。だって調査兵団兵士長の妻なのに、これぐらいで怖いだなんてあまりに情けなくて…。例え巨人を目の前にしても、動じないぐらい強くありたいのに…。
でも、リヴァイさんが降りるって言ってくれて良かった。


「…とでも言うと思ったか。」
「…え?」


まさかの言葉に私は耳を疑った。今、何て…?とでも言うと思ったか…?
意地悪な笑みを浮かべるリヴァイさんに、嫌な予感から強張る私の身体…。


「あと少しだ。目ぇ瞑ってろ。」


そう言うやいなや、リヴァイさんはさらに高い位置にアンカーを刺す。それを見た私は、リヴァイさんの首にまわしている手に力を籠め、ぎゅっと目を瞑った。

(リヴァイさんの嘘つきーっ!!)


身体がぐんっと上に引っ張られる感覚がしたあと、またすぐにリヴァイさんが着地したのが分かった。でも、さっきよりも高い場所にいると思うと怖くて目を開けられない。


「名前、大丈夫だ。落ちたりしねぇから目開けてみろ。」


リヴァイさんの落ち着いたその声に恐る恐る目を開けると、そこに待っていたのは、今までに見たことのない壮大な眺めだった。


「…っ…綺麗…。」


橙色の空に薄い紫やすみれ色が混ざっていて、今まさに沈もうとしている夕陽には手が届きそうだと思った。それに、オレンジ色に染められている街並も綺麗で…。こんなに空が近いと思ったのは初めてだった。


「…本当に翼が生えたみたい…。」


不思議とさっきまでの怖さはもう無くなっていて、目の前の景色にただただ心を奪われた。自分の背中を覗いてみると、調査兵団のシンボルである自由の翼が風にはためいている。


「大げさな奴だな。」


リヴァイさんは少し呆れたように言って、私の頭を撫でた。身体に感じる爽やかな風と、その手がとても心地よくて。


美しい空に思い出すのは、リヴァイさんにプロポーズされたあの日の夕陽。あの日もこんな風に綺麗な空だった…。


「…リヴァイさん、大好きです。」
「何だいきなり。」
「…えへへ。」


恥ずかしくなって笑って誤魔化そうとしたら、まるで返事のような優しいキスが降ってきた。木の上でのキスなんて、初めてのシチュエーションにドキドキしてしまう。


あと何回、こうやってリヴァイさんと一緒に沈んでいく夕陽を見送れるんだろう。それは、私が思っているより多いのかもしれないし、もしかしたら少ないのかもしれない…。

だからこそ、こうしてリヴァイさんと一緒に過ごせる今を大切したいって思う。


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