温もりもそこそこに


「ねぇエルヴィン。リヴァイのやつ私達が覗いてるって絶対気付いてるよね?」
「あぁ。間違いないだろうな。」


ことの始まりは5分程前、私とエルヴィンはリヴァイに相談したい事があって兵士長室前に来ていた。さっさと用事を済ませて研究室に戻ろうと思っていた私は、さっそく兵士長室のドアノブに手をかけた。でも、部屋の中から聞こえてきたリヴァイと名前ちゃんのただならぬ会話に、私の動きはそこでピタッと止まってしまう。


「リ、リヴァイさんっ!!ダメですよこんな所で!!」
「これぐらい構わねぇだろ。」


(何!?これぐらいって一体何してるの!?)


今日は名前ちゃんが書類仕事を手伝いに来てる日。でも、今の会話は絶対に仕事とは関係のない事でしょ!
2人が何をしているのか気になり過ぎて発狂しそうになった私は、「出直すか。」と立ち去ろうとしたエルヴィンの腕を掴み、ゆっくりとドアノブを回してドアの隙間から中を覗いた。エルヴィンの「止めておけ。」という制止も無視して。


「…兵団内の風紀が乱れちゃいます…。」
「こんな事で風紀が乱れるか。」


そんな私の目に飛び込んできたのは、名前ちゃんを愛おしそうに抱きしめるリヴァイと、ダメと言いながらも幸せそうな表情の名前ちゃんだった。


(こ、これは…ラッキー!!)


貴重過ぎる2人のイチャつきシーンにテンションが上がり、ドアから軽く身を乗り出した瞬間、名前ちゃんを抱きしめたままのリヴァイとばっちり目が合った。


(もうバレた!!)


2人がどんな風にイチャつくのかをもっともっと見たかった私は、がっくりと肩を落とした。今からリヴァイは名前ちゃんを離して、「邪魔すんじゃねぇ。」とか言って私達に蹴りの1発や2発を入れてくるはずだ。


でも、私の予想は裏切られ、暫くしてもリヴァイは名前ちゃんを抱きしめ続けてる。それどころか、大事そうに名前ちゃんの髪まで撫でだしたんだけど!

(リヴァイの腕の中で嬉しそうに笑ってる名前ちゃんが可愛い過ぎるっ!!)


そして話は冒頭に戻る。
私は出直すとか言っておきながら、何故か一緒になって部屋の中を覗いているエルヴィンに、声を潜めながら言った。


「…もしかして私達、見せつけられてる…?」
「…俺がこの前、名前さんにちょっかいを出したのをまだ根に持っているのかもしれないな。」
「あぁ、アレね。」


1週間ぐらい前に、エルヴィンが名前ちゃんの手の甲にキスしたという例の事件。エルヴィンは面白半分、挨拶半分でやったらしいけど、その後のリヴァイの機嫌の悪さは最悪だった。それはもうこの世の終わりを感じさせる程に…。


「…なるほどね。」


名前ちゃんが定期的に調査兵団に出入りするようになった今、改めて「名前は俺のもんだ。」ってことを主張しておきたいんだろう。なんともリヴァイらしい…。


「リ、リヴァイさん!それはさすがにダメですよ!風紀が乱れるどころでは済まなくなっちゃいますっ!」
「ごちゃごちゃうるせぇな。」


2人の会話にハッとして視線をエルヴィンから部屋の中に移した私が見たものは、名前ちゃんの後頭部を引き寄せて、キスをしようと迫るリヴァイの姿だった。

(いけーっリヴァイ!やれーっリヴァイ!)


「でも、もし誰かに見られ…んっ…」


…私は見た!!紛れもないリヴァイと名前ちゃんのキスシーンを!!意外にも唇と唇が軽く触れるぐらいのキスだったけど。正直、もっと濃厚なのが見たかったけど。


「…ダメって言ったのに…。」
「何だ、嫌だったのか?」
「…嫌なわけ…ないじゃないですか…。リヴァイさんの意地悪…。」


そう言いながら、頬を赤らめてる名前ちゃんは、リヴァイの肩にこてんと自分の頭を乗せた。


(可愛いっ!!)


こんなこと死んでもリヴァイには言えないけど、リヴァイよりも先に名前ちゃんと出会いたかったよ!!

でも、今はそれよりも、どうして名前ちゃんがあんな軽いキスひとつで顔を赤くして恥ずかしがっているのかが、気になって仕方がなかった。


(あのぐらいのキスで赤くなるとか名前ちゃん処女なの!?)


いや、それは無いよね。リヴァイと結婚してるのに。こんなに可愛い名前ちゃんにリヴァイが手を出してない訳がない!でも…じゃあ一体何で!?どうしてなの!?


そう思った瞬間、私はバーンっとドアを開けて2人の前に飛び出していた。


「名前ちゃんどうしてなの!?どうしてあんな軽いキスで赤くなるの!?まさか処女なの!?ねぇ、教えてよ!!」
「…ハ、ハンジさんっ!?それにエルヴィンさんまで!!」
「やぁ名前さん、こんにちは。」
「随分と長ぇこと覗いてやがったな。この悪趣味野郎ども。」


リヴァイのその発言に、名前ちゃんは一瞬大きく驚いたかと思うと、「…あんな…風紀を乱すようなことを…本当にすみませんでした…!!」と火でも出るんじゃないかというぐらいに赤い顔で頭を下げると、サッとリヴァイの後ろに隠れてしまった。


「いやそれは良いんだよ名前ちゃん!もっと見たかったぐらいだし!それよりも名前ちゃんは処女なの!?」
「…ハンジ、君は女性に何を聞いてるんだ…。」
「名前。隠れてねぇでちゃんと答えてやれ。お前の処女を奪ったのが誰なのかをな。」


そう言って、自分の後ろに隠れている恥ずかしさで目に涙を溜めあたふたしている名前ちゃんを、私達の前につまみ出したリヴァイの顔は何だが嬉しそうだった。


「…ハンジさんの…ご想像にお任せします…。」


両手で顔を覆いながら絞り出すように言った名前ちゃん。さっきのリヴァイの発言から、処女じゃないのはよく分かったよ!それを捧げた相手もね!


「任せてんじゃねぇよ。はっきり言ってやれ。」
「リヴァイさん!そうは言いますけど、こんなの恥ずかし過ぎて…私…もう…お嫁に行けません!」
「あぁ?名前…お前は俺に嫁いでおきながら、まだ嫁に行くつもりなのか。たいした度胸だな。…今夜は躾決定だな。」
「ええっ!?違うんです!今のは言葉のあやで…!」
「ははは。本当に仲が良いな。」


2人を見て笑っているエルヴィンをよそに、私は処女じゃないのにキスひとつであんなに赤くなる名前ちゃんの謎について考えていた。こんなに研究意欲をそそるのは、今のところ巨人と名前ちゃんぐらいだよ!
これからじっくりと、今日生まれたこの謎について解明していきたいと思う!


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