2人だけの秘密
周りを見渡すと人、人、人。
ここは調査兵団の人達が利用する本部内の食堂らしく、お昼時だからかたくさんの人で溢れ返っていた。
「凄い人ですね。」
「うん。今、ちょうど昼休憩の時間だからね。」
「…ちっ。相変わらず騒がしいな。」
エルヴィンさんにお手伝いさせてもらうお仕事について聞きに行った後、私とリヴァイさん、そしてハンジさんは食堂にお昼ご飯を食べに来ていた。
リヴァイさんはいつも、お弁当があることと食堂は騒がしいという理由で兵士長室で食べることが多いらしいけど、私が食堂のご飯を食べさせて頂くことになったのでブツブツ言いながらも一緒に来てくれている。
「キャー!リヴァイ兵長が食堂に居るなんて!午前中仕事がんばって良かったぁ!」
「おい見ろよ。兵長がここに来るなんて珍しいな。」
席について食事を始めた私だったけど、周りからの視線がすごく気になる…。いや、周りの皆さんは私のことなんて眼中になく、隣に居る珍しく食堂で食事をしているリヴァイさんに釘付けな訳ですけど。
「リヴァイは良いなぁー。毎日名前ちゃんのお弁当だもんね。羨ましいよ。」
「そんなに見てもやらねぇぞ。」
「えー!リヴァイのケチー!」
自分の作ったお弁当をリヴァイさんが食べているのを見るのは初めてで、何だか嬉しい気持ちが込み上げてきた。
「何笑ってんだ名前。」
「いえ、リヴァイさんちゃんとお弁当食べてくれてるんだなぁと思ったら嬉しくなって。」
「当たり前だ。お前の作る飯は美味い。」
リヴァイさんがそんな言葉をサラッと言うから、私は涙が出そうになった。どんな褒め言葉よりも嬉しいもの。
「さぁ。リヴァイ、名前ちゃん。やっと2人揃った事だし聞かせてもらおうか!プロポーズの言葉を!」
ハンジさんの大きな声で、嬉しさに浸っていた私はハッと我に返った。
「ちょっ、ハンジさん声が大きいですよ!」
「大丈夫大丈夫!」
何も大丈夫じゃなぁーいっ!ここにはリヴァイさんに好意を寄せている女の子達がいっぱい居るんだからぁーっ!
「えっ?今ハンジ分隊長プロポーズがどうのって言わなかった?どういうこと!?」
「まさかリヴァイ兵長?でも結婚の話はデマだったんでしょ?」
予想通り騒がしくなってしまった私達の周囲。それでもお構いなしにハンジさんは言葉を続けた。
「ねぇ、リヴァイどうなの!?」
「…………。」
あっ、リヴァイさん無視してる。ハンジさんの言葉なんて全然聞こえてないといった感じで、リヴァイさんはお弁当を口に運んでいた。
「もういいよリヴァイは!名前ちゃんどうなの!?」
リヴァイさんから聞き出すことは無理だと判断したハンジさんの次のターゲットはもちろん私な訳で。
リヴァイさんから貰った、私の人生の中で1番キラキラしている宝物の様なその言葉。その言葉を口にしたくないのは、ただ恥ずかしいからだけじゃなくてもう1つ理由があった。
「あの…ハンジさんっ!」
「んっ!?やっと話してくれる気になったの!?名前ちゃん!」
ハンジさんはさっき研究室で話をした時の様に瞳を輝かせ、隣に座っているリヴァイさんの視線も私に向けられていた。
騒ついている周囲と2人からの視線に耐えきれず私は俯いて言葉を紡いだ。
「その…プロポーズの言葉は…やっぱりリヴァイさんと…2人だけの秘密にしておきたいですっ!ごめんなさいっ!」
私の本音だった。あの言葉は簡単に口にはしたくない。そう思うほどに私の中で大きくて大切なものだから。
「えぇー!?残念っ。そっかぁ。でもそれならしょうがないね。」
「ごめんなさい。」
「人の事ばっか聞いてねぇで自分の相手探せ。」
「えー。私はまだ良いよ。巨人の生態の方が気になるしね。」
「奇行種だな。」
この2人、ほんとに仲良いなぁ。
リヴァイさんとハンジさんのやり取りを隣りで聞いていると、可笑しくて思わず笑みがこぼれた。
「ふふっ。」
その瞬間に私に向けられる2人の視線。
「どうした名前。」
「仲良いなぁと思って。」
「バカ言え。仲良くなんてねぇ。」
「えー!?ちょっとリヴァイ!それ傷付くんですけどー!」
ハンジさんが真剣な顔で叫ぶのがまた面白くて、私は声を上げて笑った。
楽しいなぁ。リヴァイさんは素敵な仲間が居て幸せ者ですね。
「あの兵長…。」
その時、私達の座っているテーブルに見たことのない女の子達が4人やって来た。
「何だ。」
「…この女の人は誰ですか?見たことの無い人なので。あと、プロポーズがどうのって聞こえてきたんですが、…兵長はご結婚されてるんですか!?」
女の子達の不安そうな表情を見て私はすぐに理解した。この人達はリヴァイさんのことが好きなんだと。多分、兵士長として以上に…。
「ああ。こいつは俺の妻だ。」
「リヴァイさんっ!?」
あっさりと答えたリヴァイさんに私は驚いた。まさかそんなに簡単にバラしちゃうなんて。
一瞬静まり返った食堂は、すぐに女の子達の悲鳴や驚きの声で収集がつかないほどの騒ぎになった。中には泣き出す女の子も居た。
「うるっせぇな。行くぞ名前。」
「は、はいっ!」
そう言うとリヴァイさんは席を立ち、私の手を引いて足早に歩き出した。
そんな私達の姿を見てまた大きくなる食堂の騒ぎ。
私はこんなに大勢の人達の前で、何食わぬ顔で平然と手を繋ぐリヴァイさんにドキドキした。
そして何よりもさっきリヴァイさんが言った「俺の妻だ」って言葉が嬉しくて、手を引かれながらその言葉を何度も心の中で繰り返した。