絶対絶命


「嫌ぁっ!リヴァイさん助けてっ!」

私の身体を捕らえている手から逃れようと必死にもがいてみても、力が強過ぎて相手は微動だにさえしない。

(どうしよう!?怖いっ!)



「名前、俺だ。静かにしろ。」
「……え?」


聞き慣れたその声に振り返ると、そこに居たのは暴漢なんかじゃなくって、私の大好きなリヴァイさんだった。


「リヴァイさん!」


極度の恐怖からリヴァイさんの顔を見て一気に安心した私は、周りも確認せずにリヴァイさんに抱きついた。


「もう。びっくりしたじゃないですか。」
「驚かせて悪かったな。でも名前、お前こんな所で何してんだ?」


その問いかけに私はハッとした。

(そうだリヴァイさんには内緒で忍び込んだんだ!)

あまりの恐怖でその事をすっかり忘れていたマヌケな自分。安心してる場合じゃなかった!


「えっと…お弁当を届けに来たんです。」
「…弁当?ああ。それなら1度家に取りに帰るつもりだった。わざわざここまで持って来たのか?」
「…はい。」
「それは悪かったな。」


そう言ってリヴァイさんは私の頭にポンと優しく手を乗せた。
あれ?もしかしてお咎め無しなのでは…?


「こうしてリヴァイさんとも会えた訳ですし、お弁当渡しておきますね。お仕事の邪魔しちゃダメですし、私はそろそろ家に戻ります。リヴァイさんそれじゃあ!」


早口で喋り足早にその場を立ち去ろうとした私は、すぐにリヴァイさんに腕を掴まれて壁際に追いやられてしまった。
後ろは壁、両側にはリヴァイさんの手という完全な包囲網。
これは逃げられそうに無い…。


「ど、どうしたんですか?リヴァイさん。」
「それは俺のセリフだ。名前、お前どうしてそんな格好をしている?」


ついに核心に触れる質問が来た!逃げ場もなく、きっとちゃんと話すまでリヴァイさんは解放してくれないと予感した私は、全てを正直に話すことに決めた。


「リヴァイさん…ごめんなさいっ!私、いけないことだって分かってたんですけど、どうしてもリヴァイさんのお仕事してる姿を見てみたくて…。ハンジさんがくれたこのジャケットを着てここに忍び込んじゃいましたっ…!」
「……そういうことか。お前、さっきハンジと一緒にこっち見てただろ?」
「えっ?何でそれを…。」
「バレバレなんだよ。隠れてたつもりかもしれねぇが、木から身を乗り出しすぎて丸見えだったぞ。」
「そんなぁ…。」


完璧に隠れながら見てたつもりだったのに。あの時点でリヴァイさんにバレてたなんて…。きっとあの時、リヴァイさんがかっこ良すぎて思ったより身を乗り出してしまってたんだろうな。世の中なかなか上手く行かないですね。


「この事を知ってるのはハンジと104期の奴らだけか?」
「いえ、エルヴィンさんにも挨拶してきました。…あれ?どうしてリヴァイさん104期の人達が知ってること…。」
「あいつら今日は俺を見る度にニヤニヤと気持ち悪りぃ顔をしていやがったからな。何かあると思ったんだ。」
「なるほど…。そうだったんですか。」
「エルヴィンが知ってるなら説明する手間が省けたな。」


リヴァイさんは意外にも怒っていない様子だった。でも私、もうこんなこと絶対にしません!本当に反省してます…。


「リヴァイさん。…勝手な事をして本当にごめんなさい。私、今度こそ帰りますね。」
「…ああ。気を付けて帰れよ。」


両手を壁について私を包囲したまま、リヴァイさんの顔が近づいてきたからギュッと目を閉じた。
私の唇にリヴァイさんの唇が触れそうになった瞬間、


「名前ちゃん!まだ帰らなくて良いんだよ!」
「ハンジさんっ!?」

すぐ近くからハンジさんの声がした。
え?今の見られた?どうしよう恥ずかしい!


「ハンジ…てめぇどこから沸いてきやがった。」
「私は名前ちゃんとリヴァイの居る所ならどこからだって沸くよ!」
「…ちっ。クソ眼鏡が。」


突然のことに赤くなっている私とは反対に、リヴァイさんの眉間には皺が刻まれていて、今日初めてのリヴァイさんが怒っている表情を見た。


「名前ちゃんの帰りが遅いから心配になって様子を見にきたんだ。」
「余計なことしやがって。」
「あ、あのハンジさん!私がまだ帰らなくて良いってどういう事ですか?」
「エルヴィンが名前ちゃんに手伝って貰いたい事があるんだって。書類がどうのこうのって言ってたけど。」


ここで私にお手伝いできることなんてあるのかな…。でも、ほんの少しでもあるんだったらご迷惑をかけてしまったお詫びにお手伝いさせて貰いたい。


「おい。こいつは調査兵団じゃねぇだろうが。」
「まぁね。でも今日はそのジャケット着てるしね。」
「リヴァイさん!私、お手伝いさせて頂きたいです!勝手に忍び込んで迷惑かけちゃいましたし。お願いします!」


リヴァイさんの両手を取って必死にお願いする私を見て、リヴァイさんは溜息を吐いた。


「…勝手にしろ。」
「やったぁー!リヴァイさんありがとうございます!」
「あれ?良いのリヴァイ?」
「こいつはこうなったら言うこと聞かねぇからな。」
「やったぁー!まだ名前ちゃんと喋れるぅーっ!じゃあさっそくエルヴィンの所に行こう!」


そう言って、私達の少し前を足早に歩くハンジさんの後ろを歩いていると、突然リヴァイさんが私の肩をグッと抱き寄せて耳元で囁いた。


「名前。さっきは言い忘れたが、お前今日は帰ったら躾だからな。覚悟しとけよ。」
「…えっ!?」


ハンジさんには聞こえないように、そんなことを意地の悪い笑みを浮かべながら囁くリヴァイさんに、私は自分の体温が上昇するのを感じた。
…きっと今夜は眠れない。


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