アネモネの咲く頃に | ナノ


  06


リヴァイが来てからというもの毎日彼の訓練に付き合っている私は、立体機動の上達の早さに驚かされていた。ミケによると「馬術もかなり筋が良い。」らしい。


リヴァイが小柄であることや、夜中の訓練も上達の早さの一因であることは間違いないけど、それ以前に彼には生まれ持った超人の様な身体能力がある。


エルヴィンにはかなり見る目があるみたい。


でも、ちょっと無理やりな角度からアンカーを刺したりと危なっかしい一面もある。
今だって…


「リヴァーイ!今のはちょっと危なかったよ!」
「…うるせぇな。」


私は調査兵団の中で立体機動が1番得意だなんて言われてるけど、このままだったらリヴァイに抜かされる日も近いんじゃないかと思う。


そんなことを考えていたら、木に刺したアンカーが浅かったのかバランスを崩したリヴァイの姿が目に入った。


(あ、ぶつかる!)


そう思った瞬間、リヴァイが左肩から木に激突した。


「大丈夫ーっ!?」
「ちょっと擦りむいただけだ。」
「1回休憩にしよ!降りて来てー!」


不満そうな顔をしながらも木から降りて来たリヴァイは、顔や手もぶつけたらしく痛々しい傷になっていた。


「痛そう…。きちんと消毒しよう。」
「こんぐらい舐めてりゃ治る。」


リヴァイが傷を舐めようと顔を手に近づける…。


「ちゃんと消毒しなきゃダメ!ばい菌が入って化膿したら大変なんだから!」


リヴァイの左腕を掴んで言うと、観念したのか、それとも「面倒くせぇ」って思ったのか、それ以上は何も言ってこなかった。


「じゃあちょっとシミるよ。」
「あぁ。」


アルコール綿をピンセットで摘まんでリヴァイの左頬にできた傷を消毒する。


(リヴァイって睫毛長いなー。)


まじまじと睫毛の長さに感心していたら、ふとお互いの顔の近さに気づいて慌てて顔を離した。


「…何だ。」
「な、何でもない!次は手出して!」



(何かドキドキする…。)


今までに感じたことのない胸の高鳴りに困惑している私が居た。何なんだろうこのドキドキ。





「よしっ!これで消毒全部終わり!」
「…名前、悪かったな。」


リヴァイは少し伏し目がちにボソっと呟いた。


きっとリヴァイなりに「ありがとう」って言ってるんだと思う。言葉遣いはあんまり良くないけど、可愛いところもあるじゃない。

そう思うと、自然と綻ぶ私の頬。前よりほんの少しリヴァイのことを分かってきた気がする。


「どういたしまして。」
「………。」


言葉を返すと、リヴァイがこっちをジッと見ているのに気がついた。…どうしたんだろう?


「私の顔に何かついてる?」
「別に…。」
「そう?じゃあ訓練再開しよっか。」


オレンジに染まる空の下、私とリヴァイは訓練を再開した。
まだまだ分からないことも多いけど、こんな風に少しずつリヴァイのことを知っていけたら良いなと思う。エルヴィンの連れてきた男は、やっぱり悪い奴じゃないと思った。




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