05
その夜、夢を見た。
ずいぶんと前から繰り返し見る悪夢。
私の手を引っ張り、地下街の商人に引き渡そうとする叔父。
商人達の気持ち悪い笑顔。
あんなに優しくしてくれていたのに…。信じていたのに。
どうしてどうしてどうして…。
「……っ…どうして…。」
ハッと目が覚めた私はベッドから飛び起きた。
「またこの夢…。」
身体が汗ばんでいて気持ち悪い、相当うなされていたんだろうな。
(最近は見なくなったと思ってたんだけどな…。)
12歳の頃、地下街で見た叔父の表情や風景。
それは、なかなかにリアルな夢で何度見ても未だに慣れない。
自分が思うよりも、あの時のことが深い心の傷となっているのかもしれない。
ふと、のどの渇きに気付いた私はベッドを抜け出した。
(…水でも飲みに行こうっと。)
部屋を出て食堂へ向かう。夜中の廊下は静かで、自分の足音が普段よりも大きく聞こえた。
食堂に着いた私は、コップに水を注ぎ一気に飲み干した。
喉が潤うのと同時に、心が落ち着くのを感じる。
「はぁ…。」
もう何度、こうして夜中の食堂に来たんだろう。
コップを洗い部屋に戻ろうとした時、見知った人影が食堂の窓の外に見えた。
「……リヴァイ?」
人影の方に近づき窓を開け、小声で話しかける。
「リヴァイ、こんな夜中に何してるの?」
「名前か。…まだ起きてんのか。」
リヴァイは私に気づいて一瞬だけ驚いた顔をすると、すぐにいつもの不機嫌な顔に戻ってしまった。
よく見るとリヴァイは立体機動装置を身につけていて。
「まさか…こんな夜中に1人で訓練してたの?」
「…まぁな。それよりお前は何してんだ。」
「私は…ちょっと水を飲みに来てただけ。」
「酷ぇ顔してるぞ。何かあったのか?」
リヴァイは窓から食堂に入って来た。相変わらず身のこなしが軽い。
「ううん。大丈夫。それよりリヴァイ、夜はゆっくり休んだ方が良いよ。毎日訓練で大変なんだから。」
「あぁ。今から休む。」
(今からってもう夜中の3時だよ。)
馬術も立体機動も軽くこなす超人だと思っていたリヴァイは、才能だけでなく努力もする人物だったみたい。
「お前の方こそさっさと寝ろ。」
「うん。ありがと。」
言い方はぶっきらぼうだけど、リヴァイなりに心配してくれてるのかな…?
「じゃあね、リヴァイ。」
「あぁ。」
食堂でリヴァイと別れた私は、また1人夜の廊下を歩き自室に戻る。
(そんなに悪い奴じゃないかもしれない。)
そう思うと、リヴァイのことが今までよりちょっとだけ好きになれそうだった。