アネモネの咲く頃に | ナノ


  04


リヴァイが調査兵団に来てから数日が経った。

私はと言うとリヴァイの立体機動の訓練に、訓練兵団での立体機動の指導、まだ少し残っている報告書にと毎日大忙しだった。


そんなある日、食堂でナナバとゲルガー一緒になった。

「名前お疲れ様。」
「ナナバ!お疲れ様!」


私はナナバの優しい笑顔が大好き。その笑顔でこっちまで自然と顔がほころぶ。


「おう名前!久しぶりだな!」
「あ、ゲルガー居たんだ。」
「ずっとナナバの隣に居ただろうが!」


食堂に響く大きな声。そんな大声出さなくても聞こえてるってば。


「もう大きな声出さないでよ。私疲れてるんだからね。」
「…知るかそんなこと。」


そっぽを向きながら吐き捨てるように言うゲルガーは、まるで子供みたいだと思った。もう少しナナバを見習って欲しい。


「名前が疲れたなんて言うの珍しいね。例の彼のことかな?」


さすがはナナバ。どこかのゲルガーとは大違いで察しが良い。


「そうなの。まさかエルヴィンが連れて来た男があんな粗暴で潔癖症だったなんて。もう最悪!」
「お前も大変だなー。」


パンを頬張りながら言うゲルガーの顔が二ヤついているのは気のせいではないと思う。


(ゲルガーめ…。)


嫌味の1つでもくれてやろうかと思っていると、背後からハンジが現れた。


「みんなお疲れ様。ここ良いかな?」
「ハンジ!座って!今ねリヴァイが粗暴で潔癖症でもう疲れたって話してた所なの。」
「うん。名前が大きな声で話してたからちゃんと聞こえてたよ。」
「うそ!?そうなの!?」


どうやら私は気づかないうちにかなり大きな声で話してしまっていたらしい。ナナバとゲルガーの方を見ると、2人ともうんうんと頷いている。


「名前がそんな風に感情的になってるのって珍しいね。訓練兵の時から一緒だけどほとんど弱音とかも吐かなかったしね。」
「私もそう思う。そうやって感情を露わにするのはとても良いことなんじゃないかな。」


確かに自分でもこんなに感情的になってるのは珍しいことだと思う。誰かに「疲れた」なんて弱音を吐くのも初めてかもしれない…。


「名前しんどい時はいつでも頼るんだよ。」
「ナナバ…ありがとう。」


優しい言葉が心にゆっくりと沁み渡る。


「そうだよ名前。今度気晴らしに巨人の実験を見せてあげるよ。」
「う、うん…ありがと。」
「俺も名前の奢りならいつでも酒に付き合ってやるぜ。」
「はいはい。」


みんなそれぞれに気遣ってくれているらしい。
優しい言葉に心を預けたくなるけど、過去のトラウマがそれを許さない。


(信じている人達に裏切られるのはもう嫌だ。)


いつもこうやって自分の中で壁を作ってしまう。
こんな自分が嫌い。でも裏切られるのはやっぱり怖い…。


「みんな…ありがとう。」


私は俯きながら、絞り出すようにそう言った。
いつかこの壁を壊せる日が来るのかな…。






[ back to top ]