アネモネの咲く頃に | ナノ


  02


壁外調査から戻った私は報告書作りに追われていた。

「終わらない…。これほんとに終わる時が来るのかな。」

壁外調査から戻ると毎回これだ。
もう壁内に戻ってきてから3日も経つのに、書いても書いても全く終わりが見えない。

「はぁ…。」

さっきから出てくるのは溜息ばかり。こんなの書いてる時間があったら訓練したい…。

(ちょっと休憩しよ。)

机に置いていたマグカップを手に取り、ふと窓の外に目を向けると一面に広がる青空が目に入った。
どうやら私は、空の模様さえ分からないほどに報告書に没頭していたらしい。


「綺麗な青空…。」


壁の向こうまで続く果てしない青空。ふと両親のことが頭によぎった。
あの人達は壁の向こうでどんな景色を見たのだろうか…。
こんな風に報告書に追われていたりしたのだろうか…。


(自分の親なのに知らないことが多すぎる。)


そんなことを考えていると、コンコンとドアをノックする音がしてハンジが入ってきた。


「名前、エルヴィンが話したいことがあるんだって。」
「エルヴィンが?分かった。すぐ行く。」


散らかっている机の上を軽く整理し、ハンジと一緒にエルヴィンの部屋に向かう。


「ねぇハンジ、エルヴィンの話って何だろうね。」
「さぁ。でも何か大事な話だろうね。ミケも呼ぶように言われたんだ。もうエルヴィンの部屋に着いてる頃だと思うよ。」
「そうなんだ。分隊長全員招集かぁ。」


きっと何か大事な話があるんだろうけど、せめて報告書が全部終わってからにして欲しかった。


(どうか無茶なことを言われませんように。)


エルヴィンの部屋に着くまで私はただ祈った。あの人はたまにすごい無茶なことを言い出すから…。






「エルヴィン、名前も連れて来たよ。」
「名前、ハンジ座ってくれ。今日は3人に話したいことがあるんだ。」


エルヴィンの部屋の中にはいつもの様に穏やかな表情のエルヴィンと、先に到着していたミケ、そして見たことのない目つきの悪い小柄な男が1人居た。


(誰…?)


「3人に紹介したいのだが、彼の名はリヴァイ。今日から調査兵団の一員として皆と共に活動することになった。」


エルヴィンが紹介したそのリヴァイという男は、殺気を放ちながら眼光鋭くこちらを睨みつけている。


(嘘でしょ!?こんなのが仲間になるの!?)


あまりの驚きに何も言葉が出ない…。


静まり返る部屋の中で、動揺を隠せない私とミケをよそに最初に口を開いたのはハンジだった。


「へぇー。訓練兵団からの入団じゃないなんて珍しいね。スカウトでもしたの?」
「そんなところだ。ハンジが言った様にリヴァイは訓練兵団を出ていない。だから3人にはリヴァイに色々教えてやって欲しいんだ。ハンジは巨人の生態について、ミケは馬術、名前は立体機動とここでの生活に必要なことを。」


エルヴィンの真剣な眼差しが私に向けられる。

(どうして私が生活面のことまで…。)


「3人共これから頼んだぞ。」


エルヴィンは笑顔で言うけど、こんな殺気垂れ流しの男とは極力関わりたくないというのが私の心の底からの本音だ。


(でも、失望される訳にはいかない。)


「これからよろしくね、リヴァイ。」


リヴァイの前に右手を差し出し笑顔で言ってみる。もしかしたら、意外と良い奴って可能性もあるしね。


「……チッ。うぜぇ。」


そんな可能性はやっぱり無いかも…。初対面の人に対してうぜぇってこいつ何様!?



(エルヴィン…前途多難過ぎるんですけど。)


「はぁ…。」


差し出した右手を戻し、私は小さく溜息を吐いた。





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