アネモネの咲く頃に | ナノ


  スクラップ・バードのハミング


俺の視線の先には名前という名の洗濯物を干しながら鼻歌を歌っている馬鹿女がいる。何だあの大量の洗濯物は…。どう見ても1人分ではないその洗濯物の量に、俺は心底呆れていた。

こいつのことだ。どうせ自ら進んで面倒事を引き受けたに違いねぇ。


「おい、名前。」
「リ、リヴァイ!?いつから居たの!?何か聞いた!?」
「別に何も聞いてねぇ。」


珍しく慌てふためく名前。鼻歌を他の奴に聞かれることより、問題なのはお前の隣に積んである大量の洗濯物だろうが。


「何だその洗濯物の量は。」
「あぁこれ?班員の子達の分だけど。みんな壁外調査前の訓練でヘトヘトみたいだから。」


本当にこいつはお人好しの馬鹿女だ。壁外調査前で朝から夜まで忙しくしてるのはお前の方だろう。なのにどうしてこいつは他の奴の面倒まで引き受けた挙句、嬉しそうに笑ってやがる。

目の前の名前の笑う顔は、出会った頃の様な作りもんの笑顔ではない。


「どうして笑ってる。」
「…どうしてって…。これであの子達が少しでも訓練に集中できたら嬉しいなぁと思って…。」
「…世話焼きすぎじゃねぇのか。」


何がこいつをこんな風にさせているのかは知らねぇが、何でもかんでも背負い込み過ぎだと言ってやりたかった。自分の時間を犠牲にしてまで、他人の世話を焼く名前のことが俺は理解できねぇ。今だって名前は、昼休憩の時間のはずだ。


「そんなことないよ!みんな一生懸命頑張ってるんだもん。私にはこれぐらいしかしてあげられる事がないし。」
「とんだお人好しだな、お前は。」


ため息混じりに皮肉を言ってやると、名前は驚いたような顔をした。


「…リヴァイが私を褒めるなんて…。昼から雨になるからそういうの止めてよね。」
「褒めてねぇ。」
「何それ、どっちなの!?」


そう言うと今度は怒りだした名前。普段は落ち着いたフリをしてやがるが、本当は喜怒哀楽の激しいやつだということを俺はもう知っている。いつからか俺の前では作り笑いもしなくなったな。


「もう、上げてから落とすの止めてよね。一瞬喜んだ自分が馬鹿みたいじゃない。」
「一度も上げてねぇだろ、馬鹿。」
「何それー!!さっきはお人好しって言ったくせにー!!…まぁいいや。リヴァイの分もやっておこうか?」
「…何をだ。」


俺の前に両手を差し出しす名前。
こいつ…まさか…。


「決まってるでしょ。洗濯物。」
「本当に馬鹿だなお前は…。」
「えーどうして?リヴァイも初めての壁外調査前で色々大変でしょ?」
「うるせぇ。俺は自分のことは自分でする。名前、お前も少しは自分の為に時間を使え。」


そう言って俺はその場を立ち去ろうとした。こんなお人好し女放っておけばいいものを、何故かそうすることができない俺も相当の馬鹿なのかもしれねぇな。

振り返った俺は名前に向かって言った。


「名前。さっきお前が歌ってたのは何て歌だ?」
「なっ…!やっぱり聞いてたんじゃない!」
「聞きたくもねぇのに聞こえただけだ。」
「…リヴァイの馬鹿ー!!」


今までに見たこともないような赤い顔で叫ぶ名前に満足した俺は、名前を背に歩き出した。

こいつが何を抱えて生きているのかは知らねぇが、次の壁外調査とやらが終わったら問い詰めてみるのも悪くねぇな。



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