アネモネの咲く頃に | ナノ


  35


「名前、もう体は大丈夫なの?」
「お前は死なねぇと思ってたけどな。」
「でもあのまま意識が戻らない可能性だってあったんだよ。」


私の目の前にはナナバ、ゲルガー、そしてハンジ。このメンバーでこうやって食堂でご飯を食べることなんて、当たり前のいつもの光景なのに、久しぶりだからか今日はその当たり前が嬉しくて仕方なかった。


「何ニヤついてんだよ名前。まだどこか悪いんじゃねぇか?」
「もう悪いのは腕だけですー。」

ゲルガーの悪態も今日は許してあげよう。でも、明日からは許さないからね!


「元気そうで本当に良かったよ。あの時のリヴァイの様子からして、私は名前は死んだんだと思ったよ。」
「あぁ。看護兵も相当困ってたもんな。」


何…?何の話?
あの時って…看護兵が困るって…。ナナバとゲルガーが何のことを言っているのか、私には全く分からなかった。

その時、私の困惑を感じ取ったのか隣に座るハンジが口を開いた。


「名前…。リヴァイはね、名前が巨人にやられたあと、ずっと名前のことを離さなかったんだよ。」


ハンジの話はこうだった。私が巨人に握られ意識をなくした後、一瞬で残りの巨人を倒したリヴァイは私をかき抱いて、普段からは想像できないような大きな声で私の名前を呼び続けていたらしい。それは、壁の中に帰って来てからも…。私を引き渡すように訴える看護兵の声も届いていない様子だったという。


「病院でもずっと名前のこと呼んでたよ。」


そのハンジの言葉に私はハッとした。
あの時見た長い夢…。母親とは違うもう1人の強くて大きな声。その声に導かれるように私は目を覚ました。


(そうだ。あの声は…。)


そう思った瞬間、私は立ち上がっていた。


「…リヴァイのところに…行ってくる。」


今すぐ、リヴァイに会いたいと思った。


「名前、頑張って!」
「うん、ありがとう。」


ハンジにはもう、私の気持ちなんてお見通しなんだと思う。優しい笑顔のナナバと、何が起きてるのか分からないといった表情のゲルガーにも「ごめん。」と告げて、私は走り出した。



ねぇ、リヴァイ。
もうあなたが私のことをどう思っているかなんてどうでもいい。

ただ、私はあなたが好き。

もう待てない。溢れそうなこの想いを聞いて欲しい。

こんな私の気持ち、笑ってもいいよ。

それでも私は、言葉にしてちゃんと想いを伝えるから。


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