アネモネの咲く頃に | ナノ


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本部に戻ってきた私はリヴァイと別れたあと、シャワーをしてからハンジの部屋に向かった。誕生日のプレゼントは買えなかったけど、私はハンジにおめでとうの言葉以外にもう1つ、どうしても伝えたいことがあった。


「名前!?その口どうしたの!?」
「…ちょっと色々あって。」
「良かったら入ってよ。散らかってるけどね。」
「うん。ありがとう。」


そういえばハンジの自室ってあんまり来たことなかったかも。この人は自分の部屋より研究室に籠ってることが多いから。


「ハンジ。お誕生日おめでとう。何も用意できてなくて申し訳ないんだけど…。」
「ありがとう!名前覚えてくれてたんだ。それを言いにわざわざ来てくれたの?」
「うん…それもあるんだけど…。」


ハンジが淹れてくれたミルクティーはあたたかくて甘くて、優しい味だった。私はすぅっと小さめの深呼吸をした。


「あのね…私、ハンジのことが大好き。訓練兵の時からもうずっと、ハンジの明るさや優しさに何度も救われてきた。私はハンジのこと…1番の親友だと思ってる。」
「…名前…。」


これは私の本心。この気持ちに嘘や偽りなんてこれぽっちもない。本当はずっとそう思ってた。

でも、過去の出来事が私の心の中に壁を作って自分以外の誰かを信用できずにいた。というよりも、心の底から信じられる誰かにまた裏切られるのが怖かっただけなんだろうと思うけど…。


「大切な存在だから、失なった時のことを考えると怖くて…今まではあと少しの所から歩み寄れてなかった。でも今は、それよりもハンジに大好きって、こんな私とずっと一緒にいてくれてありがとうって伝えたかった。」


こんな気持ちを素直に伝えたいと思ったのは、1回死にかけたから?それとも今日、過去のトラウマと向き合うことになったから?…きっとどっちも影響してて、リヴァイと出逢ったことも関係しているのかもしれない。


「名前…。私もずっと名前のひたむきに頑張る姿に、その笑顔にずっと救われてきたよ。名前は無理して笑ってることもよくあったけど、それも全部含めてその笑顔に私は支えられてきたんだ。」


そう言ってハンジが涙組むから、つられて私も泣きそうになる。本当に私は良い仲間を持った。


隣に座るハンジを左腕でそっと抱きしめて私は言った。


「ありがとうハンジ。これからもよろしくね。私より先に死んだら絶対に許さないから。」
「それはこっちのセリフだよ、名前。私より先に死ぬなんて絶対に許さないよ。」


本当に全く同じことを言ってるのがおかしくて、2人で顔を見合わせて笑った。今、この空間には優しい時間が流れていて、「あぁ生きてて良かった。」って改めて思った。




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