アネモネの咲く頃に | ナノ


  29


「名前これ着とけ。」


私の格好を見兼ねたリヴァイは、ロープを解き自分の上着を脱いで私に着せてくれた。今思うとブラウスは破られて、殴られた顔は口元が切れ首からは血を流して、酷い姿だなぁ私。


「…ありがとう。」


私をさらおうとした男2人組はあの後、騒ぎを知った通りすがりの人が呼んでくれ駆け付けた憲兵に連れて行かれた。私とリヴァイは調査兵団の関係者ということもあり、少し事情を聞かれただけで特に憲兵の本部で事情を聞かれることもなくあっさりと解放された。


「ねぇリヴァイ、帰るのもう少しだけ待ってくれる?」


憲兵も引き上げ、さっきまで私が襲われかけていたこの部屋には今はリヴァイと2人きり。空はすっかり日が沈み気付けば雨が降り出していた。安心したせいなのか、さっきから身体の震えが止まらない私は床に座り込んだ。巨人との戦闘でも震えたのなんて新兵の時ぐらいだったのに。


「そんなに怖かったのか?」
「うん…。怖かった。」
「そうか。」


リヴァイはそう言うと座り込む私をそっとその腕で抱きしめ、私の頭を撫でながら言った。


「もう大丈夫だ。名前。」


その言葉がじんわりと心に沁みて、また涙で視界が滲む。弱い私はいつもリヴァイに助けてもらってばっかりだ。もうたまりに溜まってしまったこの恩を、私はいつか返せる日が来るのかな。


「…っ…ありがとう。リヴァイ。」


この前の様に涙を流す私を何も言わずに抱きしめてくれるリヴァイ。この腕の中は温かくてやっぱり安心する。だから、この腕には寄り掛かりたくなるのかもしれないな。


そうしてひとしきり泣いて身体の震えも止まった頃、私は徐に口を開いた。


「…私ね、両親が幼い頃に死んじゃってから転々と親戚の家にお世話になってたの。でも、12歳の時に当時一緒に住んでいた叔父さんに都の地下街に連れて行かれて…。」


今までエルヴィンにしか話していなかった自分の過去を、ずっと心に黒い染みをもたらしていた自分の過去を、リヴァイに聞いてもらいたかった。



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