アネモネの咲く頃に | ナノ


  26


「おい名前、面倒くせぇからはぐれんなよ。」
「…うん。」


約束通りお昼から街にやって来た私とリヴァイだったけど、思ってた以上に人が多い!はぐれんなよってリヴァイは言うけど、ここではなかなか難しいことの様に思えてくる。街ってこんなに人多かったっけ?


「ハンジのプレゼント何が良いかなぁ。」
「壁外で巨人でも生け捕るのが1番良いと思うがな。」


リヴァイはそんな夢もロマンも何も無いことを言う。…でも、それは確かにそうなんだけど。生きた巨人なんてプレゼントしたら、ハンジはきっと泣いて喜ぶと思う。うーん。やっぱり巨人の方が良かったのかな。いやダメダメ!そんなの壁外調査でまた手に入るもん。


「もう、リヴァイのバカ!一瞬巨人に心が傾きかけたでしょ!」
「知るか、バカ名前。」




そんな会話をしたのも、もう2〜3時間前で一向にピンと来る物が見つからない。どうしよう、このままだと日が暮れちゃうよ。さっき見た雑貨屋さんが1番良かったかなぁ。うーん。
考えながら歩いていると、リヴァイがぐいっと私の腕を引っ張った。


「危ねぇ。お前はこっち歩け。」
「あ、ありがと…。」


人が多い割には荷馬車が行き交ったりする通りだからリヴァイの言う様に少し危ない。でも、何かこういうのって女の子扱いっぽくてちょっと嬉しいかも。


「リヴァイ、ほんとにありがとね。」
「何だいきなり。」
「だって一緒に来てくれたし、なかなか良いプレゼントが見つからないのに文句の1つも言わないでいてくれてるでしょ。本当に感謝してるんだよ。」
「別に感謝されることなんてしてねぇ。」


リヴァイはそう言うけど、何時間も付き合わせちゃって悪いなぁ。最後にあの雑貨屋さんを見て、リヴァイに何かご馳走して帰ろうかな。ハンジのプレゼントはもう良いのが見つからなかったら、本部で巨人型のクッキーでも焼こう。
そう考えながら歩いていた時、私の目にある物が映った。


「あっ、あれ…。アネモネだ!」


それはショーウィンドウの中に飾られていた、控え目にアネモネの柄が入ったストールだった。


「…アネモネって花好きなのか?」
「うん…大好き。」


入院中にリヴァイが持って来てくれたお花だからだよ。私はお花になんて詳しくないけど、アネモネのことはしっかり見分けがつく様になっていた。お花そのものじゃなくて、こうやって柄として入っていてもすぐに気が付くぐらいに。


「可愛いでしょう。このストール。」


私があまりにショーウィンドウに張り付いて見てたものだから、お店のお姉さんが出て来て声をかけてくれた。


「はい。色もアネモネの柄もすごく可愛いです。」
「アネモネは大輪で見た感じは元気な印象を受けるけど、花言葉が儚い恋や希望っていうのもまたギャップがあって素敵ですよね。」
「…儚い恋や希望…。」


そう言えば、アネモネの花言葉は今まで知らなかったな。「儚い恋」まるで私の今後の行く末を暗示しているような…と思うと少し悲しくなった。


「良かったらゆっくり見て行って下さいね。」
「はい。ありがとうございます。」


花言葉は悲しくても、やっぱり私にとってアネモネは特別で。このストールもすごく素敵で欲しいけど、何せお値段が…。


「欲しいのか、名前。」
「…うん。欲しいけど、これ買っちゃったらハンジのプレゼントもリヴァイにご馳走もできなくなるから…諦める。」


こればっかりは仕方がない。ここは涙をのんで諦めて、さっきの雑貨屋さんに行こう。今日の1番の目的はハンジのプレゼントなんだから。


「ねぇ、リヴァイはこの辺りで待ってて。私はさっきの雑貨屋さんにもう1回行って来る。すぐ戻るから。」


これ以上リヴァイを付き合わせるのは悪いから、1人でサッと見てこようと思った。


「おい名前。」
「じゃあちょっと行ってきます!」


そう言って私は軽く走り出した。もうすぐ日も暮れちゃうし、何だかさっきから雲が分厚くて雨も降り出しそうだ。


人の間を縫う様にして目的のお店を目指して走っていると、ぐいっと誰かに腕を引っ張られ私の身体は狭い路地に転がった。


「っ…痛った!」


何が起こったのか分からず周りを見渡すと、男が2人ニヤニヤしながら私を見下ろしていた。


「間違いない。こいつは東洋人だ。」
「久しぶりの東洋人だな。なかなかの上玉だから高く売れるんじゃねぇか。」


その会話には聞き覚えがあった。12歳の時、親戚の叔父さんに連れられて行った都の地下街でも、私は同じ様な言葉を聞いたことがある。


(…逃げなきゃ!)


例え対人格闘技の訓練をしていても、左腕だけで男2人組に勝てる訳がない。そう思った瞬間、私は立ち上がり大通りの方に逃げようとした。


「絶対逃がすなっ!」


そう叫ぶ男の声が聞こえて、あっという間に1人の男がその腕で私を捕えもう1人の男は思い切り私の顔を殴った。
その衝撃があまりに強く、私の意識はそこで途切れた。


[ back to top ]