アネモネの咲く頃に | ナノ


  20


部屋に残った私は、机を挟んでエルヴィンと向かい合わせで座っていた。


「名前、体は辛くないかい?」
「うん。もう全然大丈夫だよ。」
「あまり病院に行けなくて悪かったね。」
「ううん。忙しいのにエルヴィンが何回か来てくれてすごく嬉しかったの。」


私が入院している間のエルヴィンは本当に忙しそうだった。
壁外遠征の後はいつもそうだけど、調査兵団代表として会議に出たり、被害の報告をしたり殉職した兵士の家族を訪ねたりと、忙しくない訳がなかった。そんな中で私のことを気にかけて病院に来てくれた時は、嬉しい気持ちと申し訳ない気持ちでいつも胸がいっぱいになった。


「後はその右腕だけだな。」
「うん。やっぱり右腕は 完全に治るまであと1ヶ月はかかるんだって。」
「そうか。大変な目に合わせてしまって本当にすまない。」
「謝らないでエルヴィン。悪いのは全部私なんだから。」
「そんなことはない。団員に何かあればそれは私の責任だ。」
「エルヴィン…。」


エルヴィンがあまりにも真っ直ぐにこっちを見て言うから、私は言葉を返すことができなかった。


「名前、腕が治るまでくれぐれも無理しないように。」
「うんっ。もちろんそのつもり。しばらくは大人しくしとくよ。」
「そうか。」


そう言ってエルヴィンの大きな手が私の頭を撫でた。久しぶりで少し恥ずかしいような気がした。


その時、いきなりドアが勢いよく開いてリヴァイが入って来た。


「おいエルヴィン、話が………邪魔したな。」


部屋に入ってきたリヴァイは、私とエルヴィンを見るとそう言ってすぐに出て行ってしまった。


(なんか完全に誤解されてる気が…。)


「エルヴィン、私リヴァイのこと呼んでくるね。何かエルヴィンに用事があったみたいだし。」


私はすぐにリヴァイを追って走り出した。
誤解されたままなんて嫌だった。


「名前あまり無理をしてはいけないっ。」
「大丈夫っ!」


エルヴィンはそう言ったけど、私はただリヴァイを目指して走った。


軽く走るとすぐにリヴァイに追いついた。でも、やっぱりまだ走ったりするとすぐに息が上がってしまう…。伸ばした手でリヴァイの肩を掴んで私は言った。


「リヴァイ、私エルヴィンとの話終わったから…」
「うるせぇ。」


でも、私の言葉はリヴァイによって遮られてしまった。しかも手まで振り払われるなんて、こんな展開は想像してなかった。リヴァイはその一言だけ吐き捨てるように言うと、私と目も合わせずに足早に去ってしまった。


「何あれ…。」


1人取り残された私は、立ち去るリヴァイの背中を見つめていたけど、リヴァイがこっちを振り返ることはとうとうなかった。


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