アネモネの咲く頃に | ナノ


  19


2週間ぶりに戻ってきた本部は、何も変わっていなくて少し安心した。たったの2週間ぶりなのに、このすごく懐かしい感じと安心感は何なんだろう。きっといつのまにか、ここが私の大事な居場所になってたんだろうな…。


自分の部屋に戻り荷物を片づけていると、ハンジが走ってやって来た。


「名前おかえり!」
「ただいま…ハンジ。」


ハンジが言ってくれた「おかえり」という言葉は自分でもびっくりするぐらいに嬉しくて、心にすぅーっと溶けていった。


「エルヴィンが大事な話をしたいから今から来てほしいんだって。」
「何だろ、退院してすぐに大事な話って…。」


部屋の片付けをやめて私とハンジはエルヴィンの部屋に向かった。


「何だろうね。まさか壁外遠征のことではないだろうし。…うーん。」
「まさか…。またリヴァイみたいにエルヴィンがスカウトして来た人の紹介とか!?」
「えー!でも、あり得ない話でもないね。」


2人でそんな話をしていたら、すぐにエルヴィンの部屋に着いた。
部屋に入るともうミケはすでに到着していて、ああいつもこうやってミケは私達より先に来て待ってくれてたなぁとそんなことですら懐かしく感じる自分が居た。


「名前大丈夫なのか?」
「うん!もう右腕以外は完全復活!」
「名前、退院してすぐなのにすまないね。」
「ううん。それより今日はどうしたの?」


エルヴィンのいつも通りの優しい表情も今日はなんだか新鮮に思えて、今生きていることが心の底から嬉しかった。


「実はリヴァイのことなんだが…。」
「リヴァイがどうかしたの?」
「リヴァイを兵士長に任命しようと思っているんだ。」
「兵士長!?分隊長を飛び越えて一気に兵士長になるの!?」


エルヴィンの言葉にはかなり驚かされた。ミケとハンジもおそらく私と同じような気持ちだろう。

確かに兵士長というポジションは今は不在だけど、最近入団したリヴァイをいきなり兵士長に任命するなんて、なかなか斬新でかなり思いきった考えだ。


「ああ、そうだ。この前の壁外遠征で確信したよ。兵士長のポジションはリヴァイが適任だと。名前を助けたことや、何よりもリヴァイの実力を考慮してこの考えに至ったんだ。本人にも相談して了承も得ている。」


エルヴィンの言う様にリヴァイが兵士長というのは適任だと私も思った。彼ほどの実力者なら、調査兵団のみんなもついてくるだろう。


私が考えていると、ミケとハンジが先に口を開いた。


「問題ない。」
「うん。私もミケと一緒の意見だよ。」
「そうか。名前はどう思う?」


3人の視線が私に向けられる。
私の出す答えなんて1つしかなかった。


「私はこの間の壁外遠征でリヴァイは近い将来、人類の希望のような存在になるんじゃないかなって感じたの。だから私もリヴァイが兵士長になることには賛成だよ。」
「そうか。みんなありがとう。」


エルヴィンは私の言葉を聞くと、少しほっとしたように微笑んだ。


「エルヴィン、今日の話はそれだけ?」
「ああ。今日はこの事を話したかったんだ。」
「あっ、そうだエルヴィン!私、報告書提出するの時間かかると思うの。右手使えないし…。今回は少し遅れても良い…?」
「ああ。もちろんそのつもりだ。あとこれからは報告書は兵士長のリヴァイに提出して欲しい。」
「うわぁー。取り立てきつそうだね。」


ハンジの言葉に私は激しく首を縦に振った。
エルヴィンなら少しぐらい遅れても大目に見てくれてたけど、リヴァイは少しでも遅れたらうなじを削いできそうだ。


「あと名前はもう少し残って欲しい。」
「…うん分かった。」



部屋から出て行くハンジとミケを見送って、私はエルヴィンの部屋のソファに座り直した。





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