アネモネの咲く頃に | ナノ


  18


意識が戻ってからの1週間はあっという間に過ぎた。
エルヴィンやミケ、ナナバにゲルガー、それに班員たちとみんなが顔を見にきてくれたのがすごく嬉しかった。生きてまたみんなに会えることができて、本当に良かったと心の底から思う。


特にハンジとリヴァイは仕事の合間とかにも来てくれることが多くて、寂しかったり退屈することもなかった。身体の調子も特に悪くなったりはせず、最初はひどかった身体の重さもマシになったりと、回復しているのを感じる。

ただ、リヴァイが持って来てくれたという噂のアネモネが枯れてしまったのが悲しかった。

だんだんと元気になる私とは反対に、少しずつ萎れていくその可愛い花の姿を見るのが辛かった。まるで私が元気を全部吸い取ってしまったみたいだ。



結局リヴァイにはお花のお礼を言えていない。
リヴァイ自身もそのことについては何も言うことはなく、病室に来た時は私の横でずっと本を読んでいた。そんな感じで何となくタイミングを逃してしまい、退院の予定日を迎えてしまった。


「ねぇリヴァイ、私はもう大丈夫だから自分の部屋でゆっくり休んで?今日はお休みなんでしょ?」
「見張っとかねぇとお前脱走するだろ。」
「しーまーせーん!そんな子供じゃないんだから。」
「どうだかな。」


壁外遠征の後だし、最近はエルヴィンとよく会議もしてるみたいだから絶対に疲れてるはずなのに。見張りとか言ってきっと心配してくれるんだろうな…。でも、これ以上リヴァイに迷惑をかけない為にも絶対に今日は退院する!
さっき受けた診察は問題なかったらしいから、あとは血液検査の結果だけだ…。


「名前さーん。失礼します。」


その時、ドアをノックする音と共に私を診てくれている先生が現れた。結果発表の時が来た!と私はシーツを握り締めた。


(どうか退院できますように!)



「名前さん、経過良好ですね。血液検査も問題ありません。今日で退院にしましょうか。」
「あ、ありがとうございます!」


待ち望んでいた言葉に頬が緩む。これでみんなの所に帰れるんだ。


「ただし、あまり無理はしないこと。右腕の固定はあと1ヶ月は必要ですし、壁外に出るなんてもってのほかですからね。」
「はい、もちろんそのつもりです。先生ありがとうございました。」
「いえいえ、これからも活躍を期待していますよ、名前分隊長さん。」


そう言って先生は優しく微笑んだ。
兵団の外で分隊長って呼ばれるのはすごく久しぶりで、身が引き締まるようだった。


(絶対に腕を治して私はまた壁外に出る…!)




退院が決まってからの私の行動は早かった。あっという間に荷物をまとめて、その早さにリヴァイも驚いているというか呆れているというか…そんな顔をしていた。


「あーこれでやっと帰れるんだね。帰ったらまず何しようかな。美味しい物も食べたいし、部屋の掃除とかもしたいなぁー。」
「おい名前よ。お前まさか忘れてんじゃねぇだろうな。」


今にもスキップでも始めそうな私に、リヴァイはそんな言葉を浴びせかけてきた。でも何のことを言っているのか全く分からない。


「…何のこと?」
「報告書。」


すっかり忘れていた大嫌いなその言葉に血の気が引くようだった。本当に今の今まですっかり忘れてしまっていた…。


「私…やっぱりもうちょっと入院しとく!」
「馬鹿言うな。さっさと帰るぞ。」


そうやって私は、リヴァイに引きずられる様にして調査兵団本部に帰ってきた。




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