アネモネの咲く頃に | ナノ


  17


「リヴァイ。エルヴィンとの話は終わったの?」
「あぁ。今終わったところだ。」
「じゃあ私はエルヴィンに名前の意識が戻ったことを知らせてくるよ。」


じゃあね名前と言って、ハンジはそそくさと行ってしまった。さっきまでハンジが座っていたベッド横の椅子に、今度はリヴァイが座った。
…何だか少し緊張してしまう。


身体を起こしてリヴァイと向かい合うようにベッドに腰をかける。やっぱりまだいつもの様には動けない。折れてしまっている右腕のこともあるけど、それよりも身体が重くて仕方なかった。


「おい名前、あんま無理すんじゃねぇ。」
「…大丈夫…。」


向かい合ったは良いけど何から話そう。
迷惑をかけてしまったこととか命を助けてもらったお礼とか…。話したいことはいっぱいある。


少し開けている窓から入ってくる風が、考え込む私の頬をふわっと撫でた。
でも、先に口を開いたのはリヴァイだった。


「痛むのか。」
「ううん。そんなに痛まないよ。リヴァイが助けてくれたからこれぐらいで済んだ。本当に感謝してるの。…ありがとう。」


ふいに手を伸ばしたリヴァイの指先が、私の頬にできた傷に軽く触れた。


「…リヴァイ?」


そのまま顔が近づいてきて、今度はその頬の傷にリヴァイの唇が優しく触れた。リヴァイの指先や唇から伝わる温かい体温にひどく安心して涙で視界が滲んだ。


「…ごめんなさい。私がリヴァイを守るって言ったのに、守るどころか守られて…。迷惑かけて死にかけて…本当にかっこ悪いね、私…。」


さっきまで私の頬に触れていたリヴァイの手を握って言葉を紡いだけど、全部言い終わる前に次から次へと涙が溢れて声が詰まる。


リヴァイは何も言わなかった。
何も言わずに私の隣に座って、泣きじゃくる私をその両腕で力強く抱きしめた。
それから私が泣き疲れて眠るまで、ずっと抱きしめ続けてくれた。



その日、私は初めて誰かの前で泣いた。


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