アネモネの咲く頃に | ナノ


  16


意識を取り戻した私は、医者の先生から身体の状態についての説明を受けた。驚くことに私は1週間も意識が戻らなかったらしい。あの壁外調査に出てからもう1週間も経過しているなんて信じられなかった。

痛みを感じて動かせなかった右腕は骨が折れているらしかった。でも幸いに折れた骨が皮膚から飛び出したり、激しく転位したりしていなかったから1〜2ヶ月程の固定で治るそうだ。骨がくっついたらまた立体機動装置で飛び回ることも可能だと聞いて安心した。

意識がなかなか戻らなかったのは、巨人の手に握られた時に首の後ろを強く圧迫されたのが原因として考えられるらしい。首の後ろの頸髄というところには人間にとって大事な神経が走っていたりと重要なところだそうだ。

あとは頬や身体に何箇所か地面に転がった時にできた傷があるけど、どの傷も浅いから傷跡は残らないらしい。


とりあえずは経過観察の為に1週間入院することになった。
でも絶対安静ではないから散歩をしたり、少しずつ身体を動かしても良いとの話だった。



「名前本当にごめんね…。」
「どうしてハンジが謝るの?無茶をした私が悪いんだよ?」
「でも私達がもっと早く駆けつけていれば名前がこんな風にならなくて済んだかもしれないのに…。」


ハンジは索敵支援班である自分達の到着が遅かったからと言って自分を責めている様だった。ハンジは何一つ悪くなんてない。あの時に無茶を承知で巨人の群れに飛び込んだ私が1番悪いんだから。


「本当にハンジは何も悪いことなんてしてないんだからね。私の方こそ無理な事をしてごめんなさい。…それにさっき目が覚めた時に、ハンジが側に居てくれて嬉しかったの。ありがとう。」
「名前がそう言ってくれるなら良かったよ。あ、あと名前の意識が戻る少し前までリヴァイも一緒に居たんだよ。今はエルヴィンと会議中だけど、終わったらここに戻ってくると思う。」
「そうなんだ。リヴァイも居てくれてたんだ…。」


ハンジの話によると、あの時巨人の手に掴まれた私をリヴァイが1人で助けてくれたらしい。一瞬で巨人の腕を切り落とし、次々にうなじを削ぐその姿は目で追うのがやっとなほど速かったそうだ。駆け付けたハンジの目に入ったのは、泣き続ける班員たちと私を抱きかかえるリヴァイの姿だったらしい。

無茶をした私をリヴァイやみんなはどう思っているんだろう。
私がみんなを守るって言ったのに…。
そう思うと少し気分が陰鬱になって、枕元にある誰かが持って来てくれたお花に目を移した。


「そういえばこのお花可愛いね。ハンジが持って来てくれたの?」


目が覚めた時から気になっていた赤色の可愛い花。元気に咲いている大輪のその花を見ると少し明るい気分になれた。


「ううん。これはリヴァイが持って来てたよ。」
「えっ!?あのリヴァイが!?」
「あっ、でもこの事は名前が目覚めても言うなって言ってた気がする。」
「どうして内緒にするんだろう…。」
「さぁ。柄じゃないって自分でも分かってるんじゃない?」


ハンジのその言葉に思わず吹きだしてしまった。


(…確かに柄じゃない…)


でもあの仏頂面のリヴァイがこのお花を持って来てくれたんだと思うと、嬉しさと愛おしさが胸に込み上げてきた。


「なんて名前のお花なんだろう?私初めて見た。」
「アネモネって言うらしいよ。」
「…アネモネ…。名前まで可愛いんだね。」



そんな話をしていたらノックもなしにドアが開いて、私が会いたくて仕方なかったリヴァイの顔が見えた。私の姿に気がつくと目を見開いて少し驚いたかと思うと、すぐにいつもの表情に戻ってしまった。


「…目覚めるのが遅ぇんだよ。」


久しぶりに聞いた大好きな声に涙が出そうになった。


それは窓の外からオレンジ色の光が射し込み、私の頬を茜色に染める頃。


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